名越 これから日本を正常な状態に戻すには、どうすればいいのか。本書では一つの処方箋として「医療財政改革」を提案されていますね。
鈴木 ワンノブゼム(多くある中の一つ)ですが、そこは避けられないと思います。国民皆保険はすばらしいし、保険料で維持できるなら何の問題もないですけど、国債という借金で何とか穴埋めし続けるのは、現実的に無理があります。
名越 要は医療の自己負担を増やすか、保険料の大幅増額でしょうけど、政治家は選挙があるから、なかなか言い出せませんよね。
鈴木 先進国の多くは財政のチェックをシステム的にやっています。日本もそうした制度を導入するべきかもしれませんが、問題は、そんな決断をできる腹の据わった政治家がいるかどうかです。
名越 本書で今の日本のリーダーを「二軍の政治」と書かれていますが、まさにそうだと思います。
鈴木 かつての田中派所属の政治家は格が違います。頭もいいし迫力があった。昨今の「裏金事件」など、まさに二軍のやりそうなことじゃないですか。田中派の政治家は、もっと危ない橋は渡っても、あんなセコいことはしませんでしたよ。
名越 鈴木さんから見て、日本を任せられる次代の政治家はいますか?
鈴木 優秀な人はいます。個人的に応援もしていますけど、その人が権力を握れるかどうかは別の問題。今後、どんな仕事をしていくのか、チェックしていきたいと思っています。
名越 政治の監視はメディアの重要な役割ですから、どんどんやってほしいのですが、鈴木さんが政権構想の作成にも関わっていたことを多くの人が知ることで、政治批判をしにくくなることはありませんか。
鈴木 そんなことはまったく考えていません。それは政治家側も同じで、菅さんや安倍さんから「文藝春秋」の報道に圧力がかかったことは一度もありません。
名越 鈴木さんは昨年、その「文藝春秋」を退社してシンクタンクを立ち上げられました。これからは政治とどう関わる予定ですか。
鈴木 実は不祥事が多発して以降、官僚と経済界の繫がりがなくなりました。政治家も役人や経済界の人を集めることをしなくなった。できれば、そういう人の集まる場を提供したいと考えています。
名越 ぜひ、頑張ってください。期待しています。
鈴木 ありがとうございます。
ゲスト:鈴木洋嗣(すずき・ようじ)1960年、東京都生まれ。84年、慶應義塾大学を卒業、株式会社文藝春秋入社。「オール讀物」「週刊文春」「諸君! 」「文藝春秋」各編集部を経て、04年から「週刊文春」編集長、09年から「文藝春秋」編集長を歴任。その後、執行役員、取締役を務め、24年6月に同社を退職し、シンクタンクを設立。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう 拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「独裁者プーチン」(文春新書)など。