連日熱戦が繰り広げられ、日本中を寝不足にさせているパリ五輪。日本人選手のメダルラッシュはそれに拍車を掛けそうだ。
ところで、見る人が多ければ、耳にする人は当然多いというわけで、NHKの五輪番組のテーマ曲として連日流れるYOASOBIの「舞台に立って」が脳内でリフレインしている人は少なくないだろう。ところが大会が進むにつれて、この曲に賛否が聞こえてきている。
五輪というだけあって当然、YOASOBIを知らない世代が大勢テレビを見ているわけだが、曲がかかる度に「早口で何を歌っているのかわからない」「曲調がスポーツに合わない」といった意見が多く上がっているのだ。
YOASOBIは、コンポーザーのAyaseとボーカルのikura(幾田りら)からなる音楽ユニット。2019年12月にシングル「夜に駆ける」でデビューすると、同曲は昨年9月までに、日本初となるストリーミング再生10億回を超えた。
そして、昨年はテレビアニメ「【推しの子】」の第1期のテーマソング「アイドル」が世界的にヒットし、もはや日本にとどまらず、海外の若い世代なら誰もが知っているほどの存在となっている。
しかし、いくら世界的スターとはいえ、YOASOBIの楽曲が中高年層が受け入れやすいタイプの音楽とは言えない。事実、開催前から老若男女が見るオリンピックのようなスポーツイベントのテーマソングには向かないといった声が多かった。
過去のNHK五輪放送のテーマ曲といえば、96年アトランタ大会の「熱くなれ」(大黒摩季)、04年アテネ大会の「栄光の架橋」(ゆず)、12年ロンドン大会の「風が吹いている」(いきものがかり)、16年リオデジャネイロ大会の「Hero」(安室奈美恵)あたりが有名だが、これらは今でも曲が流れると当時のシーンを思い浮べる人は多い。
では、過去の有名曲と、今回の「舞台に立って」の違いは何なのか――。
「視聴者の意見で『口ずさめない』という意見が目立ちました。やはり『カラオケで歌いやすいかどうか』は大きい。特に五輪は幅広い世代が興味を持ちますから、わかりやすい歌詞、複雑すぎないメロディライン、そして感動を演出するサビ、その3つが必要ですが、YOASOBIの楽曲にはそれがありません。楽曲が悪いということではなく、曲の作りが現在の若者世代にベクトルが向いているということでしょう。歌番組で歌手が生で歌うのが当たり前だった世代と、ボカロ曲という新しいジャンルの配信で満足できる世代と、明らかに馴染む音楽の嗜好が分かれましたが、それがこうした大きな大会に影響を及ぼす時代になったんですね」(芸能記者)
確かにYOASOBIの作るボカロ曲的な難易度の高いメロディラインは、ikuraのような超絶的な歌唱能力を持つシンガーだからこそ歌えるもので、彼らのファンが口ずさみやすさを重視はしていないのは間違いない。
だが、これが国民的行事のテーマ曲にふさわしいかはまた別問題。「舞台に立って」が名曲認定されるか否かは、未来の五輪で再びYOASOBIが思い出されるかにどうかにかかっている。
(石見剣)