寛容さのアピールが悲劇を生んでいる。
日程が進むパリ五輪で、日本はメダルラッシュに沸いているが、現在世界で最も騒がれているのはボクシング女子の性別騒動だ。
渦中の人となっているのは、66キロ級に出場しているアルジェリアのジェンダー選手、イマネ・ケリフだが、ケリフと対戦したイタリアのアンジェラ・カリニが試合開始からケリフの強打を浴びまくり、なんと46秒で棄権してしまった。
目標としてきた五輪で、ケガ以外でラウンド途中の棄権は異例のことだが、それほど「男の体」を持つケリフの強打が凄まじかったというわけだ。リング上では、棄権して涙を流すカリニの背後からケリフが労うシーンがあったが、カリニが振り向くことはなかった。スポーツライターが話す。
「大会前から議論にはなっていましたが、実際にYouTubeでジェンダー選手であるケリニのミット打ち動画を見た元ボクサーが、パンチ力やスピードなど、男性プロボクサーとしてやっていけるレベルだと話していました。誤解を恐れずに言えば、男性ボクサーそのものだそうです。相手の女性選手が怯えるのは当然で、気持ちは女性なのでしょうが、やはり身体能力的には男性側の試合に出るべきだったのかもしれません」
この件に関しては世界的議論になっている。多くが「否」ではあるが、祖国のアルジェリアでは〝彼女〟を応援する声が大半で、世界各地に擁護コメントを発する人はいる。IOCは8月1日、公式サイトで「パリ2024ボクシング部門とIOCの共同声明」を発表し、「全ての人間に差別を受けることなくスポーツを行う権利がある」「2人の選手が現在受けている中傷に悲しんでいる」などと強調し、ケリフの女性としての出場を正当化しているが、
「この件に関して、ジェンダーの人たちが一番発言に困っていることがSNSでは伝わってきます。ですが、ある元男性の女性が『本当に女性の気持ちを持っていたら、女性が悲しむようなことはしない』と、リングに上がったケリフにやんわりと苦言を呈していました。これには多くの賛同が集まりました」(前出・スポーツライター)
連日、五輪報道に明け暮れている日本国内のワイドショーではいろいろと面倒なのか、この性別問題を取り上げている番組はほとんど見当たらない。それにモヤモヤしている視聴者が少なくない中、とある企業がクローズアップされることに。社会問題を取材するジャーナリストが言う。
「国内大手の宿泊チェーン『アパホテル』です。7月中旬頃にアパホテルの施設内で撮影されたとみられる、大浴場の利用についての注意書きが拡散されたことで、絶賛の嵐なんです。そこには堂々と『大浴場の男女の判断は身体的特徴に合わせた性別でご利用ください。戸籍が女性でも身体的特徴が男性の方は女湯に入れません』と記してありました。これが今回の五輪のジェンダー問題と相まって『よくぞ言ってくれた』『その通り』と賛辞を浴びていましたね。実際にトランス女性をめぐるトラブルが各地で相次いだことで、そうした注意書きがなされたのでしょう。勇気のある判断だと思います」
アパホテルの注意書きは「本当に女性の気持ちを持っていたら…」という、先のジェンダー女性の言葉を後押しする内容だ。
今回のボクシング性別問題のように今後、他のスポーツで同じ悲劇が起きないとは限らない。いくら多様性の時代とはいえ、しっかり議論を進める余地がまだありそうだ。
(高木莉子)