日本と北朝鮮が5月にモンゴルのウランバートル付近で秘密裏に接触していたとスクープしたのは、韓国紙・中央日報だ。
6月13日に複数の消息筋の話として、「北朝鮮は情報機関の偵察総局の関係者ら3人」「日本からは政治家を含む一行が出席した」としている。また、「中国の内モンゴル自治区でも会うことになっていた」が、実現したかは不明だと伝えている。
この件について林芳正官房長官(63)は、「報道は承知しているが、事柄の性質上、答えは差し控える」と述べるにとどめた。
朝鮮半島事情に詳しいジャーナリストの五味洋治氏はこう読み解く。
「中央日報だけではなく、昨年は東亜日報(韓国紙)も日朝実務者が接触したと報じています。当時、日本政府は否定したのに、今回は否定しなかったことで事実である線が有力です。ただ、記事には不自然な部分がある。日本側が政治家を連れていけば、口が軽いのですぐに漏れてしまう。だから、同行は考えられません。中国の内モンゴル自治区での接触予定だった話も、あらゆる場所に盗聴施設があるので、中国での接触は避けるはずです」
まさに玉石混交の情報を流すことで、水面下交渉の足を引っ張ろうとしている「黒幕」について、五味氏はこう指摘する。
「ほぼ確実だと思いますが、韓国の国家情報院(大統領直属の情報機関)が日本側の動きを把握し、メディアに流しています。尹政権は拉致問題は日韓共通の課題と位置づけて解決を目指す一方、北朝鮮とは力対力の一触即発の状況にある。そんな中、いきなり日朝関係がよくなるのは立場的にも都合が悪く、メディアを使って『こっそりやるなよ』と牽制しているのです」
複数回接触の機会があっても、何らかの意見の対立で膠着が続いているのか。その間に日朝関係を取り巻く環境は悪化している。
6月19日に北朝鮮はロシアと「包括的戦略パートナーシップ条約」を結び、ガッチリ肩を組んだ。ウクライナ侵攻でロシアに武器を提供する代わりに、食糧の供給を受けているとも言われ、日本との交渉は是が非でもという状況ではなくなっているようなのだ。
岸田総理の支持率低迷で再選も怪しくなり、「北朝鮮にとって協議を進めるメリットがない、と判断する可能性がある」と、五味氏は言う。
ここまで逆風が吹き荒れても、岸田総理には最後の〝秘策〟があった。
「8月中に日朝双方と良好な関係にあるモンゴルを訪問し、フレルスフ大統領(56)に拉致問題の解決を進めるため、間に入ってもらえるように協力を要請するプランが浮上しています」(自民党関係者)
岸田総理と金正恩総書記の首脳会談実現に向けて段取りさえできれば、党総裁選への打ち上げ花火としてインパクトは十分。
とはいえ、保身のために「北朝鮮カード」を政治利用する姿が国民に透けて見えれば、ますます岸田離れは加速しそうだ。