夏興行も終盤に入った。この夏、映画を見ただろうか。映画館に行っただろうか。「あ、行ってないなあ」という人のほうが断然多いことだろう。
昔の夏なら、映画館に「冷房完備」の看板がよく目についたものだ。映画館にはクーラーがあり、過ごしやすかった。それほど各家庭にクーラー、エアコンが普及していない時代の話である。
少なくとも、高校卒業時の70年代初頭あたりでは、わが実家にクーラーはなかった。東京などの大都市のことは知らないが、地方はそんなものだ。
映画館に涼みに行く。東京に出てきてからでも、そのようなことが結構あったと記憶する。快適な空間だから、ひょっとして、映画の見方も少し甘くなっていたかもしれない。涼みができた。映画まで見せてくれて、ありがとう。冷房のありがたさが優先されているのである。
ところが今や、冷房は映画館の大きなメリットではなくなった。当たり前だが、逆にひとつ注意すべきことが出てきた。映画館内が冷え過ぎることがあるのだ。
シネコンのロビーに足を踏み入れた途端に冷気を浴び始める。外出時なら、どの建物、電車などでもお馴染みの感覚だ。何の問題もない。こちらは、半袖のTシャツを着ているとしよう。
映画の上映が近くなり、場内に入る。映画が始まり、時間が経ってくると、少しひんやりしてくる。そこからまた時間が過ぎると、寒くなってくる。映画に没頭できなくなることだってある。
こちらは映画館に行くことが仕事であるから、そのようなことは先刻知っている。だから必ず、羽織るものを持っていく。それも途中に着出すとざわざわした感じになり、周りに迷惑をかける。だから椅子に座る寸前に、羽織ることにしている。
ただ、その時点ではまだ冷気が心地よい時間帯だから、上に羽織ると少々暑い。どうするか。袖をまくるのである。両腕を出す。これで、まずまずの感じになる。あとは過ぎ行く時間によって袖を調整する。
ここでさらにひとつ、注意すべきことがある。今述べてきたのは、よく行くあるひとつのシネコンでの対処の仕方だということだ。冷え具合は、映画館によって違うことがある。最初の段階から、冷気感マックスの映画館もある。となるとやはり、羽織るものは持って行ったほうがいいということになる。
もちろん、これは冷気に強い人には当てはまらない。何時間でもTシャツ、薄着で大丈夫という人もいるだろう。だからこれはあくまで、冷えに弱い人への参考意見として耳に入れていただきたい。
では肝心要の映画は何を見るか。この夏のベスト3として、以下の3作品を推すことにしよう。「キングダム 大将軍の帰還」「デッドプール&ウルヴァリン」、そして邦画アニメーションの「ルックバック」だ。
いちいち、注釈はしない。いずれも見て損はない。さあ、準備万端で、映画館に出かけよう。今からでも遅くない。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。新著「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2024年には33回目を迎える。