社会

医師・帯津良一の健康放談「志半ばなら“あの世”で続けるだけですよ」(1)

20150205v1st

 自分の主治医から、

「集中治療室から帰れないかもしれない」

 そう告げられた知人は、私を呼びました。死の間際でもニコニコとしている彼は私にこう告げました。

「運営しているNPOが軌道に乗りだしているのに、自分がいなくなるとダメになってしまいます。後任を誰かに頼みたいと考えたら、一番に先生の顔が思い浮かびました」

 私はNPOのことをよく知らなかったから内容を質問します。そうすると、血気盛んにしゃべりだしましてね。

 彼にとって「NPO」という存在は、生命エネルギーを高め続ける源だったのでしょう。志半ばで逝くことにひざまずくのではなく、「志」を私に託すことに「ときめいた」のだと思います。

 その様子は、とてもこれから死のうという人間には見えない。それでも、話している時の心電図は波形がやたらと乱れるわけです。波形の異常な乱れは深刻な体調悪化の表れです。やはり病状は思わしくないということは明らかです。

 私はこのまま話をさせるのもよくないだろうと思い、内容もわからないまま引き受けることにしました。

 彼が亡くなったのは、そのわずか4週間後ぐらいのことでした。

 息を引き取るまでに、私はNPOのスタッフと会い、いろいろと話を聞き、彼の情熱を知りました。

 彼は間違いなく、自分の仕事に最後の瞬間までときめいていた。

 そうすると、生前の年に数回しか一緒に酒を呑まないさりげないつきあい方が、うんと濃密に感じられるようになってきましてね。彼ともっと膝を突き合わせて呑みたかったな、そう痛感しました。

 だから私は決めたんです。彼とあの世で会おうと。現世のつきあいをどこで引きずるかといったら、生き残った人が「あの世で会おう」と言うしかない。「あの世」という言葉を使わないと、どうしたって収まりがつかないわけです。

 彼は、自分の胸を燃えたぎらせてくれることは全て取り組んで、生涯を閉じました。それが、生き生きと生きるということです。

 彼の死は、いい死には「ときめき」が必要であることをあらためて私に考えさせることになりました。

 仕事を引退したら花鳥風月を愛でて生きるのではなく、好きなことをどんどんやって、やっている最中にバタンと倒れる。

 これが「攻めの養生」であり、「いい生き方」であり、「いい死」につながると私も思っています。

「死」とはもう一つの世界に行くこと。「虚空」という、魂のふるさとへの旅立ちです。「虚空」に着いたら、会いたい人が大勢そこにいる──そう考えるほうが「ときめく」でしょ?

 私の胸を燃えたぎらせてくれるものは、仕事と原稿と晩酌です。仕事は大好きですし、書く仕事も、ありがたいことにたくさん注文が来るんです。だから、せっせと書く。楽しみの一つ。

 けど、酒を呑む楽しみがないとはかどりません。

◆プロフィール 帯津良一(おびつ・りょういち) 医学博士。東大医学部卒、同大医学部第三外科、都立駒込病院外科医長などを経て、帯津三敬病院を設立。医の東西融合という新機軸をもとに治療に当たる。「人間」の総合医療である「ホリスティック医学」の第一人者。

カテゴリー: 社会   タグ: , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
大谷翔平「3度目のメジャーMVP」でもかなわない「凱旋帰国」の高すぎるハードルと「出禁」問題
2
大谷翔平「MVP受賞映像」で「真美子夫人の妊娠説」が噴出したワケ
3
なんだこりゃ!岡田将生の電撃結婚を「完全スルー」した「めざましテレビ」の担当は元カノ鈴木唯アナ
4
東京ドームで観客半分の「プレミア12」にサッカーファンが「シラケる」挑発バトル
5
マイルCS大的中の馬券師が断言!ジャパンカップ「勝つのはドウデュース以外の日本馬」「買える外国馬は1頭だけ」