夕刊紙で著名人のインタビューなどを担当しながら、全国に97場あるギャンブル場を制覇する旅打ち行脚は、8月10日の中京競馬場でついにゴールを迎えた。
ギャンブル場は以前は中央競馬10場、公営競馬15場、競輪43場、ボートレース24場、オートレース5場である。
映画「男はつらいよ」ならシリーズ50作、四国お遍路なら88カ所だが、97場はそれよりも多い。実はこれに、今は廃止になった競輪4場、フランスと香港の競馬4場、韓国の競輪場を加えると106場になる。108つの煩悩の一歩手前まで辿り着いたことになる。
佐藤愛子のベストセラー「九十歳。何がめでたい」に倣って自虐的に言えば「九十七場、何がめでたい」。達成感があるのは本人だけで、所詮は賭け事だから褒められたものじゃないし、気に止める人もほとんどいない。
しかし、畑の違う仕事をしながら、愚食(食べ物が目の前にあると食べずにいられないこと)三昧の旅打ちは体力も労力もそれなりに必要だが、旅の終わりのプハ~で一瞬のうちに解放された。「めでたい」ならぬ、おめでたいヤツだ。
足掛け6年、97場を回って無事故無違反。収支マイナスもあったけど、ボウズは高知競馬の1回だけ。無事是名馬みたいな話である。
前置きはこれくらいにして、いよいよ中京競馬でゴールだ。夏競馬の初日、名古屋は暑かった。Tシャツの中を汗がしたたり落ちた。予報では最高気温35度くらいだが、湿度も高いので、生温かいシャワーを浴びているようだった。
中京競馬場には名古屋から名鉄の名古屋本線で、その名も中京競馬場前駅で下車する。準急で約20分。このあたりは桶狭間の合戦が行われたところで、古戦場跡の記念碑が建っている。馬たちは、まさにかつての戦場を走るのだ。駅前を左に折れた所から無料送迎バスが出ていて、前週の札幌競馬場に続いて往復、バスのお世話になった。
場内に入ってから、97場制覇の記念でスマホ自撮りを。慣れていないので、うまく撮れない。フランス、パリの青山みたいな店で買った黒のTシャツとチェック柄のシャツ、ユニクロで買ったハーフパンツに、パリのギャラリー・ラファイエットで売っている、足の甲の外側にファスナーがついたタイプの靴。キャップはかつてセリエAのメッシーナに移籍した、サッカー元日本代表の柳沢敦の試合を見るため、シチリアまで出かけた時に買った、メッシーナのロゴ入りだ。オッサンが何やっているのか、という目で若者がチラチラ見るので、恥ずかしい
この日のメシは一択。中部地方のギャンブル場にやってくると、何をおいてもきしめんを探す。よく名古屋ではどて丼という人がいるけど、八丁味噌の甘さとホルモンの組み合わせは苦手だ。
1階と2階のフードコートに「四代目一八」という店がある。一か八か。これぞギャンブル場の店。「一八」は2店あり、1階はきしめんの店、2階は手羽唐スタンドだ。
1階の店で梅きしめんを食べようかと思っていたのだが、「金鯱きしめん」(550円)に目が釘付けになった。エビの天ぷらが兜のように丼の中で立っている。エビときしめん、名古屋に来たらこれでしょ。厨房でエビを揚げている様子を見て、手抜きなしと判断。これを一気にかき込む。
「中競スタンド」とか「メン太閤」「ドン太閤」「陣屋」「馬勝」といった、名古屋や競馬にちなんだ名前の店が多い。ギャンブル場の飲食店はこうあってほしいものだ。
中京競馬場は東京、新潟と3場ある左回り。直線は芝412.5メートル、ダート410.7メートルだ。前週の札幌と比べて芝、ダートとも150メートルくらい長い。直線の長さでは東京と阪神外回りに次ぐ距離だ。しかも4コーナーを立ち上がって直線に向いたところが、高低差約2メートルの坂になっている。外ラチから4コーナー方向を見ると、場群が一瞬沈んで見えなくなる瞬間がある。中京ならではの光景が広がるのだ。
初モノ、難しい馬場、夏競馬初日。ハードな3条件が重なる中で、はたして有終の美を飾ることができるだろうか。
(峯田淳/コラムニスト)