「築城3年、落城1日」。2016年1月、年頭所感でこの年の政権運営について、当時の安倍晋三総理が語ったこの言葉は、まさしく垂れ込める暗雲を暗示していたのかもしれない。
第2次安倍内閣で経済財政相に就任し、アベノミクスの司令塔として成長戦略を担当したのは、甘利明氏だった。同時に経済再生担当、社会保障・税一体改革担当、さらには環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉に参加するなど、文字通り政権の重要課題を担うポストで活躍していた。
ところが新年早々の1月21日、甘利氏が千葉県内の建設会社社長から、2度にわたって手土産と一緒に、のし袋に入った現金50万円を受け取り、「適正に処理して」と秘書に渡していた、との記事が、問題のピン札の写真入りで「週刊文春」に掲載された。
翌週の1月28日にはスキャンダル第2弾として、事務所による「口利き」の実態が報じられ、永田町に大激震が走ることになったのである。
28日夕刻、神妙な面持ちで記者会見に臨んだ甘利氏は、こう言った。
「重要法案の一刻も早い成立こそが求められます。阻害要因は取り除いていかなければなりません。そして私も、その例外ではありません」
そして10秒ほどの沈黙を挟むと、
「本日、ここに閣僚の職を辞すことを…」
大臣辞任の意向を明言したのである。ただ、記者からの質問を受けて、
「受領した現金(50万円×2回、合計100万円)については適正に処理した。国民に対し、恥じることは何もない」
寄付の場合は、1週間以内に会計帳簿に記載することが義務付けられている。民主・維新合同の疑惑追及チームによれば、1回目(2013年11月)と2回目(2014年2月)が一緒に処理されているため、本来2013年の修正報告書に掲載されるべき1回目が公開されていなかった。事務的な処理における違法性云々はあるだろうが、
「それよりも、甘利氏が業者から50万円を受け取ったのが、UR(都市再生機構)案件で相談を受けていた時期というのが大問題。そんな時に現金を受け取れば、そこにどういう意味があるのかなど、子供でもわかるはず。それを『国民に恥じることがない』『秘書のせいと責任転嫁するのは美学に反する』と弁明するとは、呆れるばかりです」(政治部記者)
こんなわかりやすい構図の「政治とカネ」をめぐるスキャンダルが、高村正彦副総裁の「ワナを仕掛けられた感がある」発言をきっかけに、新聞各社はトーンダウン。中には「甘利擁護」とも取れる論調まで飛び出したのだから、アキレてものが言えない。
そりゃそうだろう、いかに「ハメられた」としても、疑惑を呼ぶ金を受け取ったことは動かしようのない事実。大いに恥じるべきなのである。
(山川敦司)