社会

本当はコワ〜い「歴史美女」の闇素顔〈中世・戦国編〉細川ガラシャ「鮮血の小袖」で夫を震えあがらせる

 日本史において「三大悪女」と恐れられる女傑がそろう中世・戦国時代。動乱の世だっただけに、その3人を超える〝猛女〟たちが確かに存在していたのだ。

 まずは「三大悪女」の来歴を読んでいただきたい。

北条政子:夫である源頼朝の浮気相手の屋敷を打ち壊すなど気性が荒い女性と伝えられる。夫の死後、承久の乱で東国武士を鼓舞して「尼将軍」と呼ばれ、鎌倉幕府の実権を握った

日野富子:室町幕府八代将軍である足利義政の妻。我が子の義尚を将軍にしようとして応仁の乱のきっかけの1つを作った。関所を設けて税徴収、さらに高利貸しをして蓄財したとも

淀殿(茶々):織田信長の妹であるお市の方と浅井長政の間に生まれた長女。豊臣秀吉の側室となり、秀頼を産む。徳川家康と対立して、大坂夏の陣で秀頼とともに大坂城で自害した

 3人に共通するのは我が子のため、お家のため、亡き夫に代わって政治的実権を掌握していく姿だ。この時代、同じような猛女は他にもいる。歴史研究家の渡邊大門氏が言う。

「室町後期の守護大名、赤松政則の妻(後室)である洞松院も夫が亡くなったあと強い力を持った女性です。養子にあたる義村が幼かったためで、みずから政治的な差配を行ったのです。洞松院は細川勝元の娘でもあり、細川家と赤松家の間を取り持つなど、戦国時代に怖いぐらいの存在感を示します。同様に、今川義元の母である寿桂尼も大きな政治的な力を持つ女性でした」

 三大悪女と似た来歴を辿りながら、この2人は悪女とは伝えられていない。これは後世の語り部の影響によるところが大きい。

「徳川家康の最初の正室である築山殿がその好例と言えます。最近の研究では織田家と組んでいきたい家康に対し、夫と不和となった築山殿は武田側と手を組むべく内通していたというのが通説で、それが元で自害に追い込まれた。それにしても、江戸時代の書物で築山殿はボロカスに描かれています。これは、家康を正当化するために、築山殿を悪女に仕立てる必要があったのでは‥‥」(渡邊氏)

 三大悪女に数えられる淀殿しかり、ことに徳川方に楯突いた豊臣方は何かと貶められている。

 ところが、若き日の秀吉が、その容姿に魅かれて正室に迎えたとされる北政所には、悪女のイメージはない。それどころか、淀殿のわがままな振る舞いに耐え、後宮に〈若い娘ばかり三百名を留めている〉とルイス・フロイスの「日本史」に記された夫の奔放な女性関係にもめげず、妻の鑑と見られている。しかし、そんな彼女にもコワ〜い一面がある。

 大政所(秀吉の母)に仕える侍女が産んだ秀吉の第一子を毒殺した疑いが持たれているのだ。歴史研究家の跡部蛮氏が解説する。

「秀吉の長浜城主時代の話です。その第一子は幼名・石松丸。秀吉の実子かどうか疑われていましたが、長浜市内の妙法寺の発掘調査で、秀吉と同等クラスの墓が見つかりました。秀吉の地位を継ぐべき者が亡くなった場合に相応しい墓としか考えられず、それが実子の石松丸のものではないかと話題になったんです」

 石松丸は夭折で死因も不明のため、この墓跡の発見で、ますます嫉妬に狂って北政所が毒殺したとの説が強まった。だが、石松丸が秀吉の実子との確証は見つかっておらず、北政所の毒殺疑惑の真相はいまだ藪の中である。

 一方で、より史実に近い「怖い話」がある。

 しかも、あの細川ガラシャにまつわる逸話だ。戦国武将の細川忠興の妻であり、明智光秀の娘で、その名からもわかるように洗礼を受けたキリシタンとして知られる。何よりガラシャの名が世に知られているのは、その美貌によってだろう。イエズス会宣教師が書いた「日本西教史」には〈容貌の美麗比倫なく〉と讃えられたほどの美女なのだ。

 その最期も壮絶で関ヶ原の戦いの時、大坂の細川邸で夫の留守を預かっていたガラシャは、敵方(西軍)の人質となるのを嫌い、自害が認められないキリシタンの教えを守って家老の手にかかって死を迎えたとされる。まさに、悲劇のヒロインとして語り継がれているのだ。そんなガラシャの怖い逸話は、細川家の家伝である「綿考輯録」に記されている。

 忠興がある日、大した落ち度もないのに下人の一人を手討ちにして、その血をガラシャの小袖で拭ったが、彼女はまったく驚くこともなく、その小袖を何日も着替えずにいた。これに震えあがった忠興が詫びを入れ、「なんじは蛇なり」と言うと、ガラシャはすかさず「鬼の女房には蛇がなる」と答えたというのだ。罪のない人間を殺めたことが許せなかったのか。ガラシャが肝の据わった美女であったことだけは間違いない。

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