WHOの緊急事態宣言を「深読み」すべきなのか。
ロイターは8月21日、デンマークのバイオ医薬品会社ババリアン・ノルディック社が、同社の天然痘とエムポックス(サル痘)ワクチン44万回分を、欧州の非公表の国に供給する契約を交わしたと報じた。今回の受注は当初より予想されていたもので、同社の天然痘とサル痘ワクチンの年間生産能力への影響はないという。
サル痘「エムポックス」については8月17日付の本サイト記事で、変異株がアフリカ中部のコンゴ民主共和国でアウトブレイクし、WHOが緊急事態宣言を出したと報じたばかりだ。すでにスウェーデンの首都ストックホルムで、変異株に感染した重症患者が報告されている。
ただしスウェーデン政府は、一般人への感染リスクは低いと発表。今のところ、感染者と飛行機に乗り合わせた程度では感染するリスクは低く、注射器の使い回しや不特定多数との性行為など「特殊な血液感染」が主な感染経路とみられている。日本でも昨年末、サル痘感染で男性1人の死亡が公表されたが、エイズを発症するヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染、加療中の患者だった。
ところが欧州の某国は「サル痘ワクチン」だけでなく「天然痘ワクチン」も発注したという。
天然痘は感染力が強い上に死亡率が20%から50%と高く、日本国内では「疱瘡」という病名で知られる。かつて戦国武将・伊達政宗の右目を奪った天然痘は、ワクチン(種痘)普及により1980年にWHOが撲滅宣言を発出。日本国内では1976年に「種痘義務化」が廃止された。撲滅宣言が出されてもなお、その感染力と死亡率の高さから、生物兵器に悪用されるのではないかと警戒されている。
日本製の天然痘ワクチンをめぐってはその後、製造技術を有していた熊本県の「化血研」が不祥事で経営破綻、2018年に他の製薬会社にワクチン製造を含めた医薬品製造販売業務を譲渡している。平和ボケの日本で天然痘はすっかり忘れ去られ、今年の夏、日韓の若者の間でバズッた1962年生まれの松田聖子の「青い珊瑚礁」動画を見たユーザーから「聖子ちゃんの右腕にある痛々しい傷痕はなんですか」とネット掲示板に質問が寄せられている。
1975年以前に生まれた人なら、上腕にはワクチン接種痕が残っている。人気者の宿命で、聖子のWikipediaにはご丁寧にも、右腕に残った古傷は種痘痕だとの説明がつけられている。
この撲滅されたはずの「天然痘ウイルス」を保管している国がある。旧ソビエト連邦とアメリカだ。
旧ソ連が保管していた「天然痘ウイルス」は、表向きはロシアに引き継がれ、今もロシアで保管しているとされる。あのプーチンが殺人ウイルスを所持しているというだけでもゾッとするが、天然痘撲滅と東西冷戦の時期が重なったこともあり、旧ソ連が保管していたウイルスは遺伝子配列の情報も含め、詳細が非公開のまま。しかも、日本のウイルス研究者によると、
「ソ連で天然痘ウイルスを管理していた研究者達がソ連崩壊後、行方不明になったという都市伝説があります。その後、ウイルス研究者として国際学会に参列することもありませんでした。『口封じ』されたのか、『処刑を恐れて持ち出した天然痘ウイルスとともに、旧ソ連から独立した国家に保護された』のか、東側の共産圏に逃げ延びたのか。ソ連崩壊当時、研究者の間で憶測を呼びました」
事実は小松左京の小説より奇なりで、シベリア凍土の下には天然痘で死亡した患者の遺体が今も埋まっていると、アメリカの研究者が論文に記している。
いつかロシアが天然痘を用いた生物兵器を使った際に「シベリア凍土が溶けて、天然痘ウイルスが再び世に出た」と釈明するために、遺体を残しているのではないか…というのだ。
この都市伝説を看過できないのは、天然痘ウイルスと研究者が行方不明になったロシアとウクライナが現在、戦争状態にあるからで、ウクライナによるロシア国境を超えた反撃は激化しつつある。
現在の天然痘ワクチンは、新型コロナウイルスが「謎の肺炎」「武漢肺炎」と呼ばれ中国本土で患者が出始めた2019年、欧米の製薬会社に製造認可が下りた「改良型」。サル痘の予防にも85%の効果があるとされている。
新型コロナの登場とともに、サル痘ワクチンではなくわざわざ「サル痘にも効く天然痘ワクチン」を欧米で作り始めたという偶然の一致は、実に不気味だ。今回の天然痘ワクチン受注が人類を脅威にさらす最終生物兵器のフラグでなければいいのだが…。
(那須優子/医療ジャーナリスト)