再選に向けてやる気満々だった岸田文雄総理(67)が党総裁選の不出馬を表明したことで、「ポスト岸田」争いが激化。それを横目に「検討使」はおとなしくするどころか、〝キングメーカー〟のポジション奪取という新たな野望をかなえるために動き始めていた。
「私が身を引くことでけじめをつける」
8月14日、首相官邸で臨時の記者会見を開き、派閥の裏金事件の責任を取る形を示した岸田総理。きっぱりした口調とは裏腹に、内心忸怩たる思いがあった。
出馬断念の理由について、政治ジャーナリストの山村明義氏はこう明かす。
「政権発足以来、後ろ盾だった麻生太郎副総裁(83)と直前まで4回ほど会いましたが、『世論調査の内閣支持率を考えた方がいい』と、事実上のダメ出しをされ、最後まで再選支持の言質を得られませんでした。自民党の若手や中堅議員からも、『岸田総理が続けたら自民党は潰れる』という声が本人の耳に入るようになり、出馬しても勝てないことを悟ったのです」
岸田総理に反発を抱いていたのは、なにも議員だけではなかった。ベテランの自民党関係者はこう話す。
「党本部の事務方の重鎮も自民党崩壊の危機に、水面下で岸田総理を退場させる代替案の準備を進めて、閣僚にも働きかけていました。四面楚歌の岸田総理に選択肢はなかったのです」
こうして、現職総理の急転直下の不出馬により、11人が立候補に意欲を見せる異例の展開となったのはご承知の通り。
主要派閥の解散で各議員の投票行動は自由度が上がっているが、数の力が勝利に直結するのは変わらない。そこで鍵を握るのが、主流派の麻生氏と非主流派の菅義偉前総理(75)のキングメーカー2人の動向だ。
麻生氏は岸田総理の会見が行われた同日の夜、「うちの派閥には河野太郎がいる。支持はできない」と、支持を期待していた茂木敏充幹事長(68)の梯子を外した。
しかし、河野太郎デジタル相(61)は、マイナンバーカードの問題で批判の矢面に立たされていることもあり、麻生派(志公会)の複数の議員が、二階派(志帥会)の小林鷹之前経済安全保障相(49)の支援に流れている。
それに対し、無派閥の菅氏は「ライドシェア」推進で歩調を合わせた小泉進次郎元環境相(43)を支援する方向で固まりそうだ。
「総裁選レースの号砲が鳴ってから、党内では『総理の退陣表明よりもマスコミの扱いが大きい』と冗談が出るほど、勢いは完全に菅氏。一方で麻生氏は、河野氏の支援で派閥を一致団結させることができず、求心力の低下が明らかになりました」(政治部記者)
所属議員54人の大所帯である麻生派はこのまま離散の道をたどるのか。山村氏はこうも指摘する。
「麻生氏の欠点は、出る杭は打つタイプなので、小泉氏や小林氏のような若手を推せないこと。河野氏を勝たせられなければ、影響力は失われていくでしょう。ただ、世代交代が求められる中、麻生氏が前面に出れば出るほど古い自民党の象徴に映り、国民の反発も大きい」
過去最大の正念場を迎えた麻生氏。これをキングメーカーの座を奪う好機と捉えたのが岸田総理だった。