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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「新日本VS全日本開戦の立役者は渕正信!」

 天龍源一郎の10年ぶり電撃復帰という起死回生策で、2000年6月の三沢光晴らの選手・スタッフ大量離脱の危機を乗り切った全日本プロレスだが、隆盛を取り戻すためにはさらなる起爆剤が必要だった。

 それは川田利明が全日本再出発の会見で口にした、新日本プロレスとの交流だ。

 分裂騒動に際して全日本の看板が欲しいと考えていた新日本は、長州力現場監督の意を汲む永島勝司取締役宣伝企画部長が、東京スポーツ新聞社の記者時代から顔見知りの渕正信を通じて全日本にアプローチ。藤波辰爾社長とともに全日本の馬場元子オーナーと極秘裏に会談を持ったが、永島の先走り発言に元子オーナーが態度を硬化させて話は頓挫してしまった。

 その間に天龍が全日本に復帰したが、永島は足繁く全日本の事務所に足を運んで誠意を見せ、元子オーナーも交渉続行に合意。どういう形で交流戦、対抗戦をスタートさせるかを検討するまで話は進展した。

 天龍が全日本に復帰したものの、新日本サイドは「川田と渕の2人だけの軍隊の全日本と戦う」というシチュエーションにこだわった。そこで新日本の「G1クライマックス」の8.11両国国技館大会に元子オーナー、川田、渕の3人が訪れて、開戦をアピールするというプランが浮上したが、ここで「俺1人で行きますよ」と主張したのが渕。結果的にこれが正解だった。

 キャリア26年でプロレス業界の酸いも甘いも嚙み分けている渕は、いざリングに上がるとなれば完全に戦闘モード。当日、出番予定のギリギリに両国国技館に到着し、永島がマイクアピールする内容を確認しようとすると「これからケンカを仕掛けるんだから、オヤジさん(永島)にいちいち言う必要はないでしょう」とリングへ。完全に〝2人だけの軍隊〟の斬り込み隊長の顔になっていた。

「30年! この長い間、全日本プロレスと新日本プロレスの間には常に大きな壁がありました。その壁を今日、ぶち破りに来ました。たった2人しかいない全日本プロレスですが、看板の大きさとプライドは新日本にも負けていません! この意気込みを新日本プロレスのフロント及びレスラーの諸君はどう対処するのか現場責任者の長州力選手、返答を願いたい!」

 渕の主張に新日本ファンからのブーイングはなし。リングに上がった長州が右手を差し出すと、渕が握り返す。この瞬間、全日本と新日本の開戦が決定した。

 だが、これで終わらないのが新日本のリングだ。T2000の首領・蝶野正洋がリングに躍り込んで「ふざけんな、オラッ! ここは新日本だ。とっとと出て行きやがれ!」とがなり立てて一触即発。

 天山広吉とヒロ斎藤に制止されて引き揚げる蝶野にさらに渕がかました。

「(蝶野キャップを拾い上げて)蝶野、忘れ物だ。もう止まることはできない! これが全日本プロレスの心意気だ。蝶野、来るなら来い! 新日本プロレスのファンの皆様、お騒がせしました」

 渕の堂々たる演説、敵地に1人で乗り込んできての立ち居振る舞いは100点満点。プロレス史に残る名シーンと言ってもいい。

 これを受けて全日本9.2日本武道館で渕VS蝶野の一騎打ちが実現。迎え撃つ渕は〝王道の番人〟としていきなり切り札のバックドロップ、その後はフェースロック、スリーパー・ホールドなどのねちっこい戦法で翻弄してみせたが、蝶野は急所キック、STFで逆転。計5発のケンカキックで渕を蹂躙すると、リングサイドに陣取っていたT2000の天山、小島聡、後藤達俊、ヒロ斎藤がリングを占拠。「おい、汚い全日本のファンども! お前ら、こんな団体に銭出して観に来るのか!?」の蝶野のマイクアピールに大ブーイングが浴びせられた。

 この日、メインイベントでスティーブ・ウイリアムスと組んで天龍&スタン・ハンセンと激突した川田は試合後に「渕さんが蝶野に敗れて、これで僕も新日本のトップとやりたい気持ちが固まりました」と宣言。

 川田は新日本との水面下の話し合いで渕とともに長州、永島、全日本OBで長州の右腕的な存在だった越中詩郎と会った時に「やる以上は、こっちに任せておけばいいんだ!」という長州の高圧的な姿勢に、対抗戦に対する気持ちが冷めかけたというが、遂に腹を決めたのだ。

 この川田発言を受けて新日本は9月7日に記者会見を行い、10月9日の主要カードとして佐々木健介VS川田を発表。川田にIWGPヘビー級王者であり、この年のG1に優勝した文字通りの新日本のトップをぶつけるという頂上決戦をいきなり組んだのである。

 9日後の9月16日、新日本の愛知県体育館にスーツ姿で現れた川田は、田中秀和リングアナウンサーに呼びこまれてリングイン。

「10月9日、東京ドーム‥‥全日本の川田として健介を潰す!」と宣言。〝闘魂〟と〝王道〟が雌雄を決する時がきた!

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

写真・山内猛

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