金メダルラッシュ、物議を醸した誤審、様々な意味で日本中が盛り上がった「パリ五輪」の閉幕から2週間後に、満を持して開幕した「パリパラリンピック」の、日本での盛り上がりはイマイチだ。
障害レベル別に行われる陸上競技ではスタジアムに大勢の観客が訪れ、ブラインドサッカーや車いすラグビーなどの球技はアリーナがチケット完売になるなど、フランス国民の関心は高い。しかし、パラリンピック出場者が過去最多という日本で大きな話題にならないのはなぜか。スポーツライターの表情は悲痛だ。
「2021年に東京で行われたパラリンピックでは、陸上や水泳といったメジャー競技以外に、マイナー競技のボッチャなどが頻繁にテレビに取り上げられ盛り上がりました。しかし、地元でやらないとこうも違うのかという温度差ですね。大きな理由として、テレビ放送がNHK独占ということがあります。でも、NHKだけではリアルタイムで中継するのは到底不可能。深夜にその日の録画中継やダイジェストを放送して、俳優の風間俊介らがアナウンサー以上の知識でスタジオを盛り上げてくれていますが、いかんせん、すでに結果が出ている競技ばかりで感動を呼び込めていない。そして民放のワイドショーはといえば、パラリンピックにはほぼ蚊帳の外。ドジャースの大谷選手の本塁打ばかり取り上げる〝通常運転〟に戻っています」
そんな中、パラリンピックを追いかけている人たちから思いっきり批判の的となったのが、8月31日から9月1日にかけて日本テレビ系で放送された「24時間テレビ47」だ。
日本を代表するチャリティー番組だが、今回の一番の話題はピン芸人のやす子の横浜・日産スタジアムを周回するチャリティーマラソンだった。
しかし、やす子が走る姿をメディアが刻一刻と伝える一方で、遠くパリで同時に行われているパラリンピックの多くの競技がまったく放送されない状況に怒りの声が上がっていた。
「やす子を批判しているわけではありません。ですが、障害者が元気づけられるのはどっちだという話なんです。日本テレビが感動の押し付け企画で、健常者のやす子を足を引きずるような事態にさせてまで無理やり走らせるぐらいなら、実際に不自由な体で努力した日本人が戦っているパラリンピックを今回ぐらいは放送してほしかったという意見が次々に聞こえました」(前出・スポーツライター)
9月1日の夜には、車いすラグビー日本代表が準決勝で宿敵・オーストラリアに延長戦で逆転勝ちをして東京五輪のリベンジを果たすという歴史に残る名勝負があった。これにはインターネットを介して試合を見た人たちから「感動」「泣いた」などの称賛が上がったが、実はNHKでの生中継はなしで、日本テレビは当然「24時間テレビ」だった。これには「この国の偽善ぶりにはウンザリ」といった怒りの声がこだましていた。
同じく、9月1日の日本時間19時から行われた2回戦でストレート勝ちした、車いすテニスの世界ランキング2位・小田凱人は試合前に更新したインスタグラムのストーリーズで「試合はあるけど放送はないらしいです。たぶん試合は日本時間の日曜日ゴールデンタイム。何のためにメディアに出て、演出してきたか分かんなくなりそうだけど、これが現実」と、国内のテレビ局に無視されているパラリンピックの現状を嘆いている。
だが、そんなパリパラ絡みの不満に対しては「需要がないんだからガタガタ言うな」「募金が集まるのは24時間テレビ」「大谷のホームランの方が日本が元気になるんで」と、心ない声が少なくない。事実、ここにきてスポーツ紙の一面は連日、大谷翔平の本塁打と盗塁の話題ばかりだ。
悲しいが、日本においては「パリの祭典」はひと段落してしまっていた、ということだろう。
(高木莉子)