「たらればのことは言えない。このチームで頑張っているので、今はしっかりとワールドシリーズに勝つことを目標に…」
ドジャース・大谷翔平が古巣エンゼルスとの一戦を前に、米メディアにそう答えた。
「たられば」のこととは「もし、そうなっていたら?」の質問についてだった。
どんな仮定の質問をされたのか。それは「昨年オフ、エンゼルスがドジャースと同じ条件を提示していたら、残留したか」を問われたのである。
古巣との対戦とはいえ、なぜそんなことを今聞くのかといえば、ここ数日、複数のメディアが報じた内容にその理由があった。それが「昨年、大谷は年俸の9割強を後払いにする契約を、実はエンゼルスにも提案していた。エンゼルスがそれを断わった」というものだ。メディアの質問には、その真相を確かめる意味があったのだ。
大谷は「10年総額7億ドル」(約1015億円)でドジャースと契約した。その97%が後払いになったことは移籍と同時に報じられたが、「エンゼルスが断わった」というのは初耳だ。
「エンゼルスのモレノ・オーナーは、借金を背負うことを恐れたんですかね。大谷が残留すれば、相当な額の収益を見込めたんですが」(現地メディアスタッフ)
7億ドルの97%が後払いの借金となれば、球団売却説が再燃した際に影響してくる。地元行政、財界が絡んでいる新球場の建設計画が変わってくるかもしれない。米メディアが後払い提案の真相を聞き出そうとした理由は、このへんにもありそうだ。
この件は、日本人とアメリカ人のビジネスに対する捉え方の相違を表していた。
「昇給必須のビジネスチャンスが舞い込んだ時、これまで一緒にやってきた仲間のことを思って辞退したら、日本では美談として扱われます。でもアメリカはその反対。最悪の選択として捉えられます」(アメリカ人ジャーナリスト)
後払いを提案した話が本当なら、大谷は日本人的な発想で動き始めたものの、最終的にはアメリカ人的な選択をしたことになる。
ちなみに古巣との対決は、第2打席で適時三塁打を放ってみせた。「過去」は完全に払拭されたようだ。
(飯山満/スポーツライター)