阪神が9月3日に甲子園球場で行われた中日戦を4-1で制した。優勝を争うライバル、広島と巨人がともに敗れたため、首位の広島と阪神のゲーム差は4.5差に。奇跡の逆転アレンパに首の皮を1枚残した形となった。
この日の勝利は実に大きかった。なにしろ相手の先発が今季ここまで17試合すべて先発登板で11勝2敗の高橋宏斗。試合前までの防御率は驚異の0.98 で、この登板で規定投球回数への到達が見込まれていた。さらに、防御率1点未満で最優秀防御率のタイトル獲得が実現すれば、1970年の阪神・村山実以来となる54年ぶりの大記録という偉業であることから、モチベーションが高かったことは間違いない。
しかし、軍配が上がったのは同じ〝高橋〟でも、阪神の高橋遥人の方だった。8月11日の広島戦で今季初先発初勝利をあげると、続く23日の広島戦でも勝利し、2試合の防御率は0.82と無双ぶりは健在。ある意味、この日の戦いは防御率0点台同士の激突だった。
ところが、息を飲む投手戦が期待された「無双男対決」は、阪神が2回に集中打で2点を先制し、あっさりと決着がついてしまう。その2回裏の攻撃は見事だった。
佐藤輝明のヒットと前川右京の四球で無死一、二塁とすると、次打者の梅野隆太郎には当然送りバントのサインが。ところが、中日の一塁手・石川昂弥が漫然と前進守備を取ったのを見た阪神ベンチは、梅野にバスターを指示。打球は一二塁間を抜けるヒットとなり無死満塁とチャンスを拡大する。
続く〝満塁男〟の木浪聖也が期待どおりにレフトへ2点タイムリー安打を放ったわけだが、この日の高橋遥にはこの2点で十分。7回3安打無失点で無傷の3連勝となったのだ。
勝因は高橋遥の快投だけではなく、ベンチの反省が生かされていたからだと、在阪スポーツ紙デスクは評価する。
「阪神ベンチが早い回から積極的に動いてチャンスを掴みました。1日の巨人戦で雨天コールドも予測できる空模様の中、同点の場面で先に1点を取りに行く策を打てずに巨人に勝ち越しを許し、岡田彰布監督が試合後にブチ切れるコールド負けを喫しました。あきらかにその教訓が生きて、中日の隙を突く作戦が功を奏しました」
岡田監督は大事な9月の戦いに向け「抹消せえへんよ」と、高橋遥をフル稼働させて奇跡の逆転Vへの望みをつなぐつもりだ。
聖地・甲子園で1048日ぶりの白星を勝ち取った高橋遥の次戦は、13日の同じく甲子園での広島戦の模様。その後はDeNA戦、9月最後は27日の広島戦となる予定だ。高橋遥がすべて勝利をあげれば「6勝0敗」となり、首位の広島と2ゲームは差を詰められることになる。
「すでに首位の広島に2勝している高橋遥をさらに2度ぶつけることが、逆転優勝に向けて取れる最良かつ唯一の策ということでしょう」(前出・在阪スポーツ紙デスク)
はたして、限りなく赤信号が灯っていた「アレンパ」が再び現実味を帯びる日はやってくるのだろうか。
(石見剣)