辞書によれば「金目」とは金銭的価値が高いもの、あるいは高価なものを指すのだとか。ただ、政治の世界では、いわゆる迷惑施設受け入れの代わりに渡す交付金や中間貯蔵施設の用地買収などの金額を、こう呼ぶようだ。
第一次安倍晋三内閣で当時、環境相だった石原伸晃氏の口から「最後は金目でしょ」との暴言が飛び出したのは、内閣発足から1年が経過した2014年6月16日のことだった。
この日、石原氏は福島第一原発の放射能廃棄物の中間貯蔵施設建設地をめぐり、地元と交渉。その結果を首相官邸で菅義偉官房長官に報告後、記者団に囲まれて「何の話でしたか」と問われ、ついうっかり。
「こんな感じですよ、と説明した。最後は金目でしょ」
そう本音を漏らしたから大変。前代未聞の「金目発言」が猛バッシングの嵐を巻き起こすことになったのである。
「前日に福島県双葉町と大熊町で開かれた住民説明会では、中間貯蔵施設の建設予定地候補として受け入れを要請するも、補償内容が曖昧だとして、批判が集中していた矢先のこと。むろん補償額については厳しい環境に身を置く住民らの声に耳を傾け、話し合いの推移をみて、となります。極めてデリケートな問題であることから、丁寧な上にも丁寧な説明が必要になる。それを顔見知りの記者ばかりのブラ下がり取材とはいえ、『金目』と言い放つ。その無神経さにはアキレ返りました。この暴言に自民党内からも『大臣失格』の声が上がったことは言うまでもありません」(当時を知る政治部記者)
石原氏は失言後に慌てて記者会見を開くも、
「住民説明会で金銭の話がたくさん出たが、具体的内容は受け入れが決まるまで説明できない、という意味だった」
などと苦しい弁明に終始。福島県の佐藤雄平知事をはじめ、地元住民らによる反発の声は激しさを増すばかりだった。翌17日の会見では平身低頭で謝罪を余儀なくされた。
「用地の補償額、生活再建案、地域振興策の規模について示すことが重要という意味で、金銭で解決できる問題ではない。私の品を欠く発言で不快な思いをさせた方にお詫びしたい」
だが「最後は金目」が「結局、解決するのは金」という意味であることは言うまでもなく、野党は6月20日に不信任、問責決議案を提出。与党により否決されたものの、6月23日からは石原氏による福島県での「お詫び行脚」が始まり、針のむしろに座らされることに。
そして3カ月後の9月、内閣改造で閣僚を退任することになった。しかもこの発言を境に、国民からの人気は凋落。自民党内では役職に就くも、2021年10月の衆院選(東京8区)では、立憲民主党公認の新人に惨敗を喫した。比例でも復活できずに落選するなど、まさに口は禍の元を地で行く暴言騒動の顛末を迎えることになったのである。
(山川敦司)