ドジャースの大谷翔平が、前人未到の「50本塁打50盗塁」までカウントダウンに入った。
実は昨オフ、アメリカの野球データ分析会社「Codify」が今季の大谷の活躍を予言するデータを発表していた。同社は2021年から2023年の本塁打数トップ10打者のバッターボックス(本塁)から1塁ベース到達までの平均タイムを比較。ジャッジ(ヤンキース)やゲレーロJr.(ブルージェイズ)らを抑えて「4秒11」とぶっちぎりの最速男が大谷だった。
ちなみにジャッジ は4.68秒で、ゲレーロJr.は4.59秒。大谷に次いで速かった本塁打10傑はレンジャーズのセミエンで、4.39 秒だった。
身長193センチという恵まれた体格とパワーに加え、俊足も兼ね備えた大谷は花巻東高校2年の夏、股関節を故障している。
第二次成長期の子供をレントゲン撮影すると、骨と骨の繋ぎ目に太く黒い線が映る。これは骨端軟骨(骨端線)と呼ばれ、この部分がどんどん成長することで骨が伸び、身長が伸びていく。大谷は花巻東の入学前検診で、年齢の割には同世代の選手より全身に骨端軟骨が多く残っていることが判明した。佐々木洋監督も大谷自身も細心の注意を払っていたものの、高校2年の6月に左股関節の痛みを訴え、夏の県大会を欠場。甲子園では帝京(東東京)と対決し、初戦敗退した。
その後の精密検査で骨盤の下部、坐骨結節の成長線が破断していることが判明。下級生が生活する第二寮に移り、ひたすら食べて眠る生活を送ることになった。
だが、ここで泣き言を言わないのが、大谷翔平が大谷翔平たるゆえん。日本ハム入団後、
「高校時代に目標であった日本一になるということは果たせませんでしたけど、160キロを投げるための体づくりをして、それが果たせた達成感はあります」
と振り返っている。半年間にわたる休養と、その後も股関節痛が出ない打撃練習や筋トレ中心の練習のおかげで、3年間で体重は20キロ増え、身長は入学時の188センチから5センチ伸びた。高校入学時のひょろっとした細マッチョからの肉体改造に成功した。
さらに大谷の両親も、股関節痛に苦しむ愛息のために「股関節の負担を減らし、大腿骨を無駄に動かさない」コンパクトな走法の指導者を探していたと言われる。文字通り、ケガの功名で陸上トラック競技の専門家をも唸らせる、無駄のない走法を身につけたのである。
たとえ故障してもタダで起きない大谷の貪欲さは、今も変わらない。右肘手術後の今春のキャンプでは、大谷は投球練習の代わりに、ドジャースGM特別補佐のロン・レネキー氏(過去にブリュワーズ監督、レッドソックス監督代行)から、走塁の個人指導を受けている。リードを取る際の距離感、スタートダッシュ動作などを入念に確認した。
その後の記者の囲み取材で、レネキーGM特別補佐は言った。
「私はエンゼルスにも在籍していたことがあったから、マイク・トラウトに同じ指導をしたことを、彼は知っていた」
個人指導は大谷からの依頼だったと明かしたのである。ホームラン打者No.1の俊足ながら、大谷の過去の盗塁成功率は、2021年は72.2%、2022年は55.0%と、エンゼルス時代にはその俊足を生かしきれていなかった。
「ショウヘイの手助けができれば。ショウヘイは今季、もっと走りたいと言ってるよ。(ロバーツ監督やチームが大谷に盗塁を認める条件として)盗塁を75~80%以上は成功する必要がある。試合の大事な場面で盗塁できれば、多くの勝利をもたらすことができる」
レネキーGM補佐はそうした展望を語っていたが、大谷はそれを有言実行してしまった。高校時代の股関節の故障による肉体改造と走法改革、そしてレネキーGM補佐の存在なくして、40-40も45-45も達成することはできなかっただろう。