「世界で1番のドリブラーになる夢を早く叶えたい気持ちがさらに強まりました」
サッカーJ1ジュビロ磐田のMF古川陽介がポーランド1部のグールニク・ザブジェに期限付き移籍することを発表し、9月7日にサポーターに向けてメッセージを送った。
今季からJ1に挑戦している磐田は、試合内容は悪くないものの、得点力不足が響いて勝ち星を逃している。気がつけば降格圏の18位まで沈み、ここで古川が抜ければ戦力ダウンは間違いなく、驚きのニュースとして受け止められた。
プロ3年目の21歳というタイミングでの海外挑戦。古川のサッカー人生を考えれば、こころよく送り出したいところだが、サポーターの間で思いのほか冷ややかな空気が流れているのは、チームの「戦力ダウン」だけが原因ではないようだ。Jリーグを取材するサッカーライターが説明する。
「今季の成績は23試合に出場し、2ゴール1アシスト。そのうち、先発出場したのは1試合のみで、ジョーカーとしての役割が求められていた。せめてスタメンを勝ち取ってから移籍するなら、まだ納得されたかもしれません。また、サポーターをモヤモヤさせたのは移籍先です。欧州5大リーグへの〝ステップアップリーグ〟といわれるベルギーならまだしも、ポーランドへの移籍となると、実際はJリーグの方がレベルは上という声が聞こえるからです」
SNS上には厳しい意見が多い。それだけ古川に対しては、ジュビロのサポーターだけではなく、全国のサッカーファンが活躍を夢を見ていた部分が大きかったのだ。
古川が脚光を浴びたのは、静岡県の名門・静岡学園高校で10番を背負って戦った、2021年の「第100回全国高校サッカー選手権」の大舞台でのこと。
前出のサッカーライターが懐かしそうに振り返る。
「特に伝説のプレーとして語り継がれているのは、3回戦の宮崎日大(宮崎県)との一戦です。ハーフウェイライン付近からくねくねとしたドリブルで相手を次々と抜き去ってペナルティエリアに侵入すると、今度は足の裏を使ったキックフェイントで翻弄し、冷静にゴールに流し込みました。他の試合でも観客の度肝を抜くドリブルの連続で、優勝こそ逃しましたが、ここ10年の選手権を振り返っても古川以上に輝きを放った選手はいないと言っていい」
当時は、いずれ日本代表で同じポジションのMF三笘薫(ブライトン)と熾烈なポジション争いをすることに誰もが疑いを持っていなかった。
だが、高校卒業後に磐田に入団するとプロの壁にぶち当たる。
「1年目は体の線が細く、ドリブルを仕掛けてもフィジカルで潰されるシーンが多かったしかし3年目は見るからに下半身の筋肉が太くなり、ようやく持ち味を発揮するようになってきました」(前出・サッカーライター)
そんな古川が〝覚醒〟したと言われるのは、6月26日に行われた第20節の東京ヴェルディ戦だった。
2-0でリードしていた後半アディショナルタイムに、自陣のセンターサークル付近でボールを受けると、左サイドのタッチラインから華麗なドリブルで3人を抜き去り、60メートルを独走してゴールネットを揺らした。
「高校時代の伝説ゴールを彷彿させるスーパープレーは、6月の月間ベストゴール賞に選ばれました。サポーターの間では、リーグ後半戦の救世主になると期待を寄せられるとともに、ようやく古川が磐田の『顔』としてチームを引っ張る存在になると思われたんです。しかし、皮肉にも海外のスカウトマンの耳にこの情報が届き、今回の電撃移籍につながったのです」(前出・サッカーライター)
実は磐田は昨シーズン終了後、当時18歳ながらリーグ戦33試合に出場し、7ゴールを決めた大型FW後藤啓介がRSCアンデルレヒト(ベルギー)に期限付き移籍している。
ちょっと活躍すればすぐに若手の有望株がクラブを離れてしまう現状を見る限り、厳しい言い方をすれば、Jリーグに腰かけで在籍しているのかと思われるだろう。
(風吹啓太)