2026年北中米ワールドカップ(W杯)の南米予選で「サッカー王国」のブラジルが大苦戦だ。
現地時間9月11日に行われたアウェーのパラグアイ戦で、0―1の完封負け。その結果、順位をまさかの5位に落とし、しかも出場圏外の8位ボリビアとの勝ち点差はわずかに「1」という事態に陥っているのだ。サッカーライターが「W杯に出場できない可能性がゼロではなくなってきた」と不安げに解説する。
「ブラジルは第1回大会から唯一、本大会に出場している常連国です。それに加え、今大会からは出場国が32カ国から48カ国に大幅に拡大したことで、常連国には楽勝ムードが漂っていた。10カ国で争われる南米の出場枠は『6カ国+プレーオフ1カ国』に増加。もはや出場して当たり前の状況と思われたのですが、フタを開けてみれば第8節を終えた時点で早くも4敗です」
前回の22年カタールW杯の南米予選では無敗で1位突破しているだけに、緊急事態であること火を見るより明らかだろう。
ブラジルが苦戦している大きな理由の1つは、チームを引っ張るスーパースターの不在。エースのネイマールが昨年10月、左膝前十字靱帯断裂と半月板損傷の重傷を負い、当初の復帰見込みからかなり遅れているのだ。
パラグアイ戦の先発メンバーには、名門のレアル・マドリード(スペイン)に所属するヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエス、エンドリッキの3人を前線に並べたが、最後までパラグアイのゴールを脅かすことはできなかった。アジア最終予選で無双している日本代表の攻撃陣とは雲泥の差だ。
「エースのネイマールは本大会に出場する時には34歳。長らくチームの『顔』として支えてきましたが、彼頼みというのは厳しい。ブラジル代表はいつの時代もロナウドやロナウジーニョといった〝絶対にボールを渡してはいけない〟スーパースターが途切れることなく出現しましたが、ヴィニシウスのように能力の高い選手は現れても、ネイマールのような相手に脅威を与えるようなスーパースターになれる選手がずっと出ていない。そんなスペシャルなスターの育成がここ数年にわたる喫緊の課題でしたが、ついに問題が表面化してしまったのです」(前出・サッカーライター)
6月~7月に開催されたコパアメリカ2024でもブラジルはわずかに1勝しただけで、ベスト8で早々に姿を消している。
絶不調のもう1つの理由として、長引いた監督問題が影響を及ぼしていた。
カタールW杯後に約6年間指揮をとっていたチッチ監督が退任すると、すぐに新監督が決まる流れにならなかったのだ。
ブラジルサッカー連盟(CBF)の大本命は、レアル・マドリードの名将カルロ・アンチェロッティ氏。水面下で交渉し、非公式とはいえ、クラブとの契約が終わる24年7月まで待ってから就任するのが既定路線とみられていた。
「それまでの間、ラモン・メネーゼス氏を代行監督にしたり、1年契約で暫定的にフェルナンド・ジニス監督にチームを任せていました。しかしブラジルといえど、そんな準備不足の状態で勝てるほど南米予選は甘いものではなく、ジニス監督は3連敗を含む4戦未勝利で即刻解任。しかも救世主として期待されたアンチェロッティが、23年12月末にクラブとの契約を延長したのです。とどのつまり、口約束でしかなかったのです。批判が殺到したCBFは慌てて新監督探しに奔走するハメになりました」(前出・サッカーライター)
結局、今年の1月10日にドリバウ・ジュニオール監督の就任を発表。ブラジル国内の強豪クラブを渡り歩いた指揮官に再建を託したのだが、先に触れたコパアメリカで敗退するなど、浮上のきっかけをつかめていなかった。
「バランス重視の戦術を好む監督ですが、浸透させるには明らかに時間が足らず、個の能力に頼って局面を打開するしかありません。ただしCBFは監督問題で自分たちの落ち度がわかっているため、新指揮官の擁護に回るばかりです」(前出・サッカーライター)
歴史上かつてない窮地に陥っているサッカー王国。10月には現在9位のチリ、10位のペルーという下位2チームと対戦するが、第2節で当たったペルーからは1点しか取れていない。だが、ここで1つでも負けるようなことがあれば、本当に赤信号が灯るだろう。
まさか本当にW杯出場記録が途切れる瞬間がくるのか…。
(風吹啓太)