プロ野球は優勝争いの佳境を迎えている。優勝すれば今までのしんどい思いが報われる。あと一歩で逃せば、これほど悔しいことはない。現在は3位までクライマックス・シリーズに進出できるが、やっている方はリーグ優勝しか見ていない。セ・リーグは最後までもつれそうだが、一番勝ちたいと思っているチームが抜け出すんと違うかな。
そして、ペナントレースの終盤は別れの季節でもある。オリックスではT岡田、西武では金子侑司が今季限りで引退することを発表した。2人とも個人的には思い入れのある選手で、もっともっとプロでお金を稼げる力があった。「お疲れさん」という思いよりも「もったいないな」という気持ちの方が強い。
T岡田は今年で36歳になった。ここ数年は義理でチャンスをもらっていたが、そこで力を見せられなかった。プロ野球選手は試合に出なくなると衰えが早い。引退の決断は仕方ないが、実力は球史に残るホームラン打者になれる器やった。
2005年の高校生ドラフト1位で履正社高からオリックスに入団して、5年目に33本塁打で本塁打王になった。22歳でのキングはあの王貞治さん以来の快挙で、通算200本ちょっとで終わるような打者ではなかった。
タイトルに輝いたオフに心構えを伝えたことがある。「来年が勝負やぞ。相手は警戒してくるけど、自分からボール球を追いかけて崩れたらアカンぞ」と。2年目のジンクスやないけど、怖いのは考えすぎてダメになること。ドシッと構えて、打つべき球だけを振っておけば、大崩れすることはなかった。ところが、翌年から16本、10本、4本と本塁打が激減した。毎年のように打撃フォームを変え、ついに最後まで自分の「型」を見つけることができなかった。
T岡田は優しくて真面目な性格で、人のよすぎるところが邪魔をしたと思う。いろんな人の言うことを真面目に聞きすぎた。アドバイスを受け入れる素直さも必要やけど、このあたりのさじ加減は難しい。超一流になる選手は「頑固者」や「変わり者」の方が多い。
西武の金子は、僕が正真正銘の盗塁王として認めていた選手やった。16年に53盗塁、19年に41盗塁でタイトルを取った。30以下は個人的に盗塁王とは認めていないけど、彼は本物。外野の守備も一流やし、34歳はまだまだやれる年齢やった。欠点は打つことだけ。いつも言うように、盗塁を増やす最大の秘訣は塁に出ること。もう少し打力を上げれば、不動のレギュラーになれたんやけど、規定打席に到達したのは盗塁王になったその16年と19年の2度だけやった。
金子とは西武でコーチを務めている赤田に紹介されて、ご飯を一緒に食べたことがあった。盗塁の話もしたし、打撃の話もした。赤田は当時、打撃コーチで金子の打力を上げるのが使命のような感じやった。でも、金子も最後まで自分の打撃を見つけられない感じやった。あれだけのスピードがあるのに、もったいない。力いっぱい振らなくても、タイミングだけうまく合わせれば、打率2割5分以上は残せるはずやった。
改めて言うが、プロは3年続けて成績を残して一人前。そして、ほとんどの選手は1軍でレギュラーを取らずに消えていく。厳しい世界やからこそ、面白くもある。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。