9月に入り、日本国内のアニメとコミックのファンが集まる「ネット掲示板」が荒れている。そのひとつが「完結まであと2回」を公言している「少年ジャンプ」(集英社)連載中のダークファンタジー「呪術廻戦」スレッドだ。
というのも、直近で発売された9月17日発売「42号」の内容が、ラスボスを倒した後だというのに本筋から外れ、過去にネット掲示板に書き込まれた「息詰まる戦闘シーン」の矛盾点へのツッコミや批判に、作者の芥見下々氏自らが回答するようなものだったからだ。
単行本の累計発行部数は9000万部を超え、ストーリー展開や場面展開に定評のある作品だけに、意表をついた内容は賛否両論に分かれた。掲示板やYouTubeの考察動画には「残り数回の貴重な連載にあえて掲載する必要なかった」「単行本や公式ガイドブックへのオマケとして収録すればよかった」という読者からの意見があった。
一方で芥見氏が自身や作品についての評判、反響を検索する「エゴサーチ」をしているのでは、と心配する声が多数、寄せられている。
それほど「42号」で描かれた解説、内容が過去のネット掲示板での酷評や誹謗とリンクしていたのだが、そこで懸念されたのが、作者のメンタル面だ。
「少年ジャンプ」では「鬼滅の刃」「僕のヒーローアカデミア」が連載終了し、「呪術廻戦」は残り2回、「ONE PIECE」も大円団に近づいている。これら大作の「完結ラッシュ」は、過酷な毎週連載に加え、SNS上やネット掲示板での酷評、エゴサーチの結果が漫画家のメンタルを削っているのではないか、というのだ。
結果として匿名の凡人のネット批評に振り回され、非凡な才能を持つ漫画家の筆が鈍ったり、作品が凡庸になっては、作者にとっても読者にとっても悲劇である。
このため「ONE PIECE」作者の尾田栄一郎氏は「ネットに関する全てにおいて、僕が発信することはない」と明言している。
過去に「少年ジャンプ」で連載していた「銀魂」の空知英秋氏も「ネタもストレスも漫画で解消する所存です」というスタンス。「鋼の錬金術師」の荒川弘氏は「面白いつぶやきを思いついたら作品に入れればいい。(SNSは)ネタ帳を公開しているようなもの」とド正論を突いている。
ましてや「人の心から生まれた負の感情」が具現化された「呪い」と「仲間や肉親、恩師の死」というダークなテーマを扱う「呪術廻戦」の世界観に没頭して作品を描いている作者が、リアル社会、ネット社会でも呪いの言葉を吐かれながらモチベーションを維持しなければならないのは、想像を絶する苦行だろう。
作者の構想や世界観が損なわれないよう、また作者と作品の著作権を守るために、悪質なネット掲示板、2次使用コンテンツ、ファンアートに規制を設けてもいいのではないかと思うが…。
(那須優子)