我が家の3匹の猫は、懐かず抱っこできないクールボーイは別として、ガトーとそうせきは定期的にかかりつけの動物病院に連れて行く。
メインは体重のチェックと爪切りで、ガトーは半年に一度は血液検査をやっている。その費用は病院内で簡単にやってもらう採血費が1000円。詳しく調べてもらうために検査を外に出すと、院外血液検査として5000円がかかる。体重10キロ超えのガトーにとって、血液検査は欠かせない。
神奈川県に住む愛猫家の吉田美穂さん(仮名)の2匹の猫、林檎と桃はなんらかのウイルスにでもやられたのか、食べては吐くのが止まらない。そのため、林檎は病院で連続して何日間も血液検査を受け、林檎と同じ症状になった桃も血液検査を何度もやったという。
それで原因がわかったなら検査料を払った甲斐があるのだが、症状は変わらず、逆に猫たちは日に日に衰弱していった。心配な日々が続き、病院通いの日々は無我夢中で、その間、1カ月近くの記憶があまりないという。
そして気がついたら、検査料などが込みの治療費は高額になっていった。困り果てた吉田さんが連絡してきた。
「ウチの2匹がもう食べなくなって2、3週間になるの。毎日のように診てもらっているのに、2匹とも吐き気が止まらない。この間、何度も血液検査をやって、猫たちも痛がってかわいそうになるわ。毎日、検査代を払っているから、その金額が20万円…いや、それ以上。お金があっという間になくなっちゃった。ノロウイルスみたいなのが流行っているからそれかなと思って調べてみたけど、症状が違うから、それではないみたい」
「先生にもっと突っ込んで聞いた方がいいんじゃないですか」
「聞いたわよ。原因は何か、とか、血液検査は何度もしないといけないんですか、とか、吐き止めの薬が効かないので他の薬を出してもらえませんか、とも。でも先生は『私たちがちゃんとやるから』と取り合ってくれないの。もう困っちゃって」
その病院の獣医は聞く耳を持たないのだ。我が家のかかりつけ病院では、検査漬けになるなんて考えられないのだが。
こんなことがあった。2022年夏にやってきた末弟そうせきは、すぐに両目から目ヤニが流れるほど出るようになって、動物病院で診察してもらった(写真)。点眼の目薬をもらって1週間、様子を見ることになった。
しかしよくならないので医師に相談したところ、
「ステロイドの注射をやってみましょう」
と対応してくれた。その効果は劇的で、そうせきの目ヤニは乾いたものになって、見る見るうちに治癒した。この時のそうせきは、譲渡会でもらい受けたばかり。たくさんの猫と一緒にいる間に、強力なウイルスに侵されていたのだろう。1週間ほどかかったものの、注射一発でよくなり、ひと安心だった。
しゃべらない猫の病気を診断するのは、人間よりも難しい。治らない場合は医師とやりとりしながら、処方を変えてもらうしかないのだと思う。なぜ吉田さんのかかりつけ病院の医師は、頑なな態度を取り続けたのか。林檎と桃の症状は1カ月近く続いていた。
再び吉田さんから電話があった。
「2匹とも食べないし、食べても吐くからもう痩せちゃって。このままじゃ死んじゃうわ」
その時、アッと思い出したことがあった。知り合いで保護猫のボランティアをやっている人に相談してみようか。吉田さんに伝えると、即座に「お願い!」。
電話すると、こう言われた。
「あなたたち、何をバカなことを言ってるの。血液検査を何度もするお医者さんなんていません。すぐに別の病院に連れて行って。なんなら私が紹介するから」
電話の向こうでえらく怒っている。
吉田さんはその言葉に納得して、林檎と桃をその知り合いが教えてくれた病院に連れて行った。診断結果は、ウイルスによる胃腸炎。すぐに薬を処方してくれて、林檎と桃はあっという間に回復し、ごはんを食べるようになった。
「一体、あの血液検査は何だったのかしら」
と吉田さんは首をひねる。人間の検査漬けはよくあるが、このケースのように、同じ検査を続けるなんて聞いたことがない。検査、検査で治療費を稼ごうとしているのだろうか。物言わぬ猫の病院選びには、とても注意が必要だ。(つづく)
(峯田淳/コラムニスト)