猫を飼い始めるともれなくついてくるのが、動物病院とのお付き合いだ。
最初に我が家にやってきたジュテの時には、動物病院のことは頭になかったので、近所にあることすら知らず、まるで雲をつかむ状態だった。何かあると同じマンションの下の階に住む知人に教えてもらいながら、3カ所ほどを回った。
自宅マンションから近い2つの病院は、人間が通院するような清潔感があるクリニックだった。しかし、どこか違和感があるのだ。スタッフのマニュアル通りのような対応が、なんとなくなじめない。それでも人間の場合は具合が悪いところを言って対応してもらえば済むが、赤ん坊と同じくしゃべらない猫が相手では、そういうわけにはいかない。
幸い、もうひとつの病院は趣が違っていた。ドアを開けると目の前が受付カウンターになっていて、女の先生がすぐに「どうしたんですか」と丁寧に声をかけてくれる。感じがいい。その後、通うようになって、やはりここが正解と思うようになった。
動物病院は最新の医療設備が揃っているよりは、動物に対して幼い子供に接するかのような丁寧さが大切だと思う。そういう意味では、小児科の病院選びと同じかもしれない。
しかし、そういった動物本位の病院ばかりではないのも現実である。金儲け主義のブリーダーやらがいなくならないのを見れば、言わずもがな。病院もしかり。動物は一部の人にとっては、まさに金ヅルなのだ。獣医師免許を持ち、役所に届け出を出せば、動物病院を開業できる。儲かるから始める人もいるに違いない。
猫&飼い主と病院のトラブルを紹介しよう。神奈川県に住む吉田美穂さん(仮名)は、20年以上も猫を飼い続けている愛猫家。今も2匹飼っている。4歳のオスの林檎と3歳のメスの桃だ。
それは今春のことだった。林檎が、食べたものを繰り返し吐くようになった。食べては吐き、吐いても食べて、また吐く。吉田さんはかかりつけの動物病院に連れていった。医師はまず血液検査をしてくれたという。
検査結果は病院内で簡易的に出るケースがあれば、検査機関に送って1週間くらいしてから結果を聞きに行くケースもある。吉田さんの場合は後者で、何日か後にまた来院するように言われたという。その日は吐き止めの薬を処方してもらって帰宅した。
しかし、林檎は薬を飲んでも、食べると吐き、辛そうにしている。そして吐くのが桃にも移って、2匹でゲーゲーするようになった。
翌日、吉田さんは2匹を連れて病院へと急いだ。すると林檎の血液検査の結果がまだ出ていないのに、桃の血液検査だけでなく、2日続けてまた林檎の検査をするという。
「先生、林檎もですか」
「ちょっと、やっておきましょう」
よくわからない説明しかしてくれない。しかし林檎はしゃべらないし、何もわからないから、医師に従うしかない。
2日目も林檎と桃の症状は一向に改善しなかった。吐き止めを飲んでもダメ。見ているとかわいそうなくらいだ。吉田さんはぐったりしている2匹の猫を、ただ見守るしかなかった。
3日目も2匹を病院に連れて行くと、信じられないことに、また血液検査をするという。さすがに林檎は嫌がった。
我が家の長男ガトー(写真)は、今では体重が10キロを超え、猫に多い腎臓病、糖尿病などになっていないか気になるので、半年に一度は血液検査をやってもらっている。最初のうちは病院に行くのを気にしなかったが、ある時から背中から針を入れられるのが痛いのか、嫌がるようになった。
ガトーの血液を採取して診察室から出てきた医師が、
「ガトーちゃん、今日は怒ってるのよ。嫌なのね」
とキャリーバッグを渡してくれた。人懐こいガトーにしてそうなのだから、林檎だって毎日血を抜かれたら嫌に決まっている。桃も背中から針を入れられるのが苦痛だったようだ。
なぜ連日、血液検査をやるのか。それが最大の疑問だが、飼い主にしてみれば、気になるのは治療費だ。最終的にはとんでもない金額になった。(つづく)
(峯田淳/コラムニスト)