なぜ、このような大波乱が起きたのか。原因究明は、2人の「キングメーカー」の存在を抜きには語れない。麻生元総理と、菅義偉元総理(75)である。永田町の政界関係者が明かす。
「始まる前から総裁選は2人の〝代理戦争〟だともっぱらだった。要は院政争いだよ。菅さんはもちろん小泉進次郎元環境大臣(43)。石破さんには進次郎より前にオファーしたらしいが、煮え切らない態度で見送った経緯があるようだ。菅・進次郎コンビは永田町では『異様な二人羽織』と言われていた。つまり、後ろから羽織をかぶって操っているのに、顔を隠さず丸見えってことだ(笑)」
一方の麻生元総理は当初、麻生派の河野太郎デジタル大臣(61)を推す腹だったが、
「国民のマイナ保険証推進への抵抗感が強く、河野さんが思いのほか党員票を得られないことがわかった。麻生さんにとっては苦渋の決断だったろうが、河野さんに見切りをつけるしかなかった。結果、高市さんに乗り換えたわけだが、政策や政治信条も重なる部分は多く、何より高市さんは盟友の故・安倍晋三元総理の秘蔵っ子、すぐにでも推せたのに、2人の関係はよくもなければ悪くもないという中途半端なもの。総裁選の票読みが進む中、進次郎の党員票が伸び悩み、決選投票が石破・高市になる可能性が高いとなって、初めて高市さん支持を決断した」(政界関係者)
しかし、結局のところ勝ったのは、両キングメーカーの思惑から外れた石破新総理である。理由の1つは、前代未聞の「9人立候補」にあった。山村氏が解説する。
「実に9人中7人の候補者の推薦人に麻生派の議員の名前があります。河野さん、高市さんはもとより、上川陽子外務大臣(71)や茂木敏充幹事長(68)、なんなら小泉元大臣にまで。麻生さんは投票1週間前に『高市で行くぞ』と派閥の議員に伝えましたが、広範囲に手を広げすぎて、コントロールしきれなかった可能性があります。最後に麻生さんの言うことを聞かずに石破さんに入れた、という議員がいてもおかしくはないですね」
では、もう1人のキングメーカーが支えた小泉元大臣はなぜ負けたのか。自民党の中堅議員が言う。
「麻生さんよりは年下ですが、菅さんも70歳を超えて、政治生命がいつまでも続くわけではない。お互いに、負けたままで引退することが許せないんです。だから進次郎の党員票を伸ばすために、総裁選の告示当日、総理時代に一度だけ陳情に訪れた地方の県連幹部にすら『菅です。進次郎君をよろしくお願いします』と電話したと聞いています。ところが進次郎は、候補者の討論会でコテンパンにされるなど完全自滅。そうなれば、菅さんが石破さんに手を貸すのは当たり前ですよ。高市さんを推す麻生さんだけでなく、高市さん本人とも折り合いが悪いからです」
その結果、小泉元大臣の票田からだけではなく、石破新総理とはスタンスが近い林芳正官房長官(63)や、菅政権時代に官房長官を務めた加藤勝信元厚生労働大臣(68)らの陣営からも新総理に票が流れたと見られる。
結局、自民党は「脱派閥政治」と言いつつ、今回の総裁選でも派閥の論理をいまだに最大限利用して臨んだということなのだ。当初は本命とみられていた小泉元大臣も、
「今回の総裁選では、石破さん同様に掟破りの麻生元総理との会談だけでなく、その直前には、かつて父親の小泉純一郎元総理(82)と郵政民営化の際に反対の立場から激しく対立した自民の支援団体・全国郵便局長会にも支援を願い出ている。相手は『どのツラ下げて‥‥』という感じで、厚顔であることは間違いない。
ただし〝麻生詣で〟に関しては、親父さんみずからが『行ってこい』と言ったのではないか。仮に高市さんが勝った場合に『(閣僚や党役員のポストを貰って)修行させてくれ』ってことだと思う。小泉元総理はハナから『進次郎が総裁選に出るのはまだ早い』と断言していたからね」(政界関係者)
小泉元大臣同様に麻生元総理も、最悪の事態は避けようと保険をかけた結果、キングメーカー対決で菅元総理が僅差の判定勝ちし、石破新総理が「漁夫の利」を得た形になったのだ。