2000年秋にスタートした新日本プロレスVS全日本プロレスは、01年1月28日の東京ドームにおいて開催されたジャイアント馬場三回忌追悼興行「王道新世紀2001」で、対抗戦に初出陣した武藤敬司によって空気が変わった。
対抗戦はケンカモードで殺伐とした戦いになるのが普通だが、武藤は普段と何ら変わらぬアメリカン・スタイルのプロレスで、馬場の最後の愛弟子・太陽ケアを受け止める度量の大きさを見せ、ケアの実力を引き出した上で勝利してみせた。結果、全日本のファンはブーイングを飛ばすことなく、武藤を受け入れたのである。
その後、ケアは全日本の馬場元子オーナーの希望もあって、みちのくプロレスの新崎人生とともに武藤と合流。ここにドン・フライと馳浩も加わってBATT(垣根を超えた悪ガキども)なるユニットになる。
武藤はBATT結成について「今、K-1とかPRIDEに押されているけど、俺らはプロレスが好きだから、もう垣根なんか壊してプロレスをもう1回盛り上げたい」と語った。
BATTの始動は2月18日。武藤は昼の新日本・両国国技館でケア、人生をセコンドにつけて村上一成と一騎打ちを行った後、18時30分からの全日本の後楽園ホールに直行。負傷欠場の垣原賢人に代わりケア&ジョニー・スミスと組み、天龍源一郎&渕正信&キム・ドク(タイガー戸口)に快勝して全日本ファンの大歓声を浴びた。
殺伐とした対抗戦を理想とする新日本の現場責任者の長州力は、武藤を全日本に貸し出すことに賛成しなかったが、もはや武藤は新日本と全日本の団体枠を超えた存在になっていた。
それが証明されたのは4月14日の全日本の日本武道館。この日のメインイベントは川田利明と武藤の初一騎打ちだったが、何とセミファイナル終了と同時に会場が武藤コールに包まれたのである。その直後に大・川田コールが発生したが、人気は互角‥‥武藤が放つオーラは対抗戦という図式を呑み込んでしまった。
試合は武藤がシャイニング・ウィザード2連発で勝利して、三冠ヘビー級王者・天龍源一郎へのトップコンテンダーに躍り出た。
試合後、武藤は「もしかすると川田もBATT入りだよ。BATTにみんな入って、もう頑固ジジイ(天龍)も入れて、元子さんが大将で‥‥アントニオ猪木に挑戦だよ!」とジョーク混じりに語ったが、そこには本音も入っていた。アントニオ猪木主導で格闘技色を強める新日本の路線に嫌気が差していた武藤は、全日本での純プロレスにやりがいを感じていたのだ。
そして6月8日、全日本の日本武道館で歴史が動いた。武藤がムーンサルト・プレスで天龍をフォールして第27代三冠王者になったのである。これで武藤は他団体初の三冠王者になると同時に天龍、ベイダーに続いて三冠とIWGPの2大メジャー制覇の偉業達成。
至宝流出にもかかわらず全日本のファンは新王者誕生を祝福し、武藤は「馬場さんとかジャンボ鶴田、天龍、スタン・ハンセン‥‥歴代のチャンピオンに恥じないように、このベルトをより輝かせますよ。俺、愛社精神も凄いからね、全日本に対しても、馬場さんに対しても、元子さんに対しても」と〝全日本の王者〟としての抱負を語った。
ここから武藤は新日本と全日本を股にかけて大活躍を見せる。全日本7.14日本武道館でスティーブ・ウイリアムス相手に三冠初防衛を果たすと、新日本9.23なみはやドームではスコット・ホールと他団体での初めての三冠戦を敢行。
全日本10.22新潟市体育館では、ケアと組んで天龍&安生洋二から世界タッグ王座を奪取。三冠(インターナショナル、UN、PWF)&世界タッグ(インターナショナル、PWF)の5冠王になった。
全日本10.27日本武道館では、蝶野正洋と全日本マットで新日本同士の三冠戦を実現させて、フランケンシュタイナーで防衛に成功。全日本の王者として新日本からの挑戦者を退けたのだ。
翌10月28日の新日本の福岡国際センターでは、ケアとの世界タッグ王者チームでIWGPタッグ王者の藤波辰爾&西村修とダブルタイトル戦を行い、シャイニング・ウィザードで西村を沈めてIWGPタッグ王座を奪取。前人未到の三冠、世界タッグ、IWGPタッグの6冠王になった。
年末は全日本の「世界最強タッグ決定リーグ戦」。これも12.7日本武道館にて、ケアとのコンビで川田&長井満也との優勝決定戦を制して優勝。振り返ると、武藤は2001年の全日本の日本武道館6大会すべてメインに出場、文字通り全日本の救世主だった。
01年の戦い納めは12月11日、新日本の大阪府立体育会館における藤波との三冠戦。新バージョンも織り交ぜたシャイニング・ウィザード5連発でV4に成功し、6冠王のまま新年を迎えることに。
そして2002年早々、武藤を中心に日本プロレス界に大激震が起こる。
小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。
写真・山内猛