史上初の「J1初昇格、初優勝」達成に黄色信号が灯った。
開幕から快進撃を続けてきた町田ゼルビアだが、ここにきて失速。第32節、敵地のエディオンピースウイング広島で行われた、勝ち点で並ぶサンフレッチェ広島との天王山に0-2で敗れ、3位に後退。続く10月5日に行われた第33節の川崎フロンターレ戦でもミスから3失点して、1-4と完敗を喫した。今季初の連敗となり、優勝争いどころかACL(アジアチャンピオンズリーグ)出場権を得られる3位以内の確保も怪しくなってきた。
なぜ町田は失速したのか。町田のサッカーは、運動量とボール際の激しさを基本にハイプレスをかけ、縦に速い。キーワードでいうなら、カウンター、ロングボール、セットプレー、ロングスロー。チームとしてその部分は徹底されていて、誰が出ても同じサッカーができる。ただ、徹底されているからこそ、相手に分析されやすい部分もある。
広島戦では194センチのFWオ・セフンにロングボールを合わせようとしたが、広島のDF荒木隼人がほとんど仕事をさせなかった。しかもセカンドボールへの反応も広島の選手の方が早く、町田にサッカーをやらせなかった。ロングボール、ルーズボールに対して後手を取り、0-2以上の力の差を見せつけられた。
夏の中断期間の前と後では、得点が減って失点が増えている。チームの得点源である藤尾翔太は、中断前に8ゴール。中断後はわずか1ゴールだ。オ・セフンも中断前の6ゴールに対し、中断後は1ゴールのみだ。
では前線の2人が点を取れなくなった理由はどこにあるのか。もちろん対戦相手が町田を分析してきたこともあるが、それ以上に痛かったのは、藤尾とのコンビで「町田のホットライン」と呼ばれた平河悠の海外移籍だ。
平河の主戦場は左サイド。スピードに乗った縦へのドルブル突破は、簡単には止められない。サイドを崩してからのクロスに藤尾、オ・セフンが飛び込む。それが町田の攻撃のひとつの形だった。現に平河は前半でチーム最多のアシストを決め、Jリーグで3番目に多かった。いや、攻撃だけではない。豊富な運動量で自陣に戻り、守備にも貢献していた。
平河が移籍してからは、サイド攻撃が減っている。抜けた穴を埋めるべく今夏、日本代表の相馬勇紀を獲得した。だが、2試合連続で先発したものの、その後はケガで1ヵ月間の離脱。9月中旬に復帰したが、まだチームにフィットしていない。守備面では日本代表のDF中山雄太を獲得したが、こちらも9月の福岡戦でヒザの靭帯を損傷して離脱している。
大金をはたいて獲得した頼みの日本代表コンビ、これが期待通りの活躍をしていないのは、町田にとっては痛い。
残り5試合。自分たちのサッカーを徹底的にやってきた。今さらやり方を変えることはできない。ただ、首位にいて追われる立場よりも、追いかける立場の方が精神的に楽。もう一度、自分たちのサッカーの原点に戻り、チャレンジャー精神で戦うしかない。昨季、J2時代に最後の5試合を5連勝で終わらせている。その再現はあるか。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。