昔からスポーツ中継には、贔屓チームに偏った解説というのが一定数、存在した。特に野球の場合、例えば中継が日本テレビだった場合、その親会社は読売新聞社なので当然、実況担当アナウンサーがジャイアンツ寄りになることはある意味、仕方のないことなのだろう。
ただし当該投手が一歩間違えれば命にかかわる危険球を投げたにもかかわらず、一応は中立であるべき実況アナが「ジャイアンツにアクシデントが!」と連呼すれば、大ヒンシュクを買うのは明らか。2020年7月31日に東京ドームで行われた巨人×広島戦でのひと幕がそれだった。
この日の日本テレビの実況担当は上重聡アナ。広島の攻撃で迎えた5回一死の場面。巨人・畠世周が放った149キロ直球が、広島・会沢翼の頭部を直撃する。両手で頭を押さえ、その場に倒れ込む会沢。むろん球審は畠に対し「危険球」による退場を宣告した。
ところが、である。あろうことか上重アナは、倒れ込む会沢をよそに、こうまくしたてた。
「あ~っと、頭へのデッドボール。ジャイアンツ、ここでアクシデントです」
「ジャイアンツ、アクシデント。畠、危険球退場です」
474日ぶりの先発登板だった畠は、勝ち投手の権利がかかったイニング。とはいえ、「アクシデント」に見舞われたのは畠ではなく、頭に死球を受けた会沢だ。読売系列局とはいえ、この場面で「ジャイアンツにアクシデント」はいくらなんでも不適切すぎるだろう。
当然のごとく、SNS上には上重アナをコキ下ろす言葉であふれることに。
〈アホか!アクシデントは頭部死球を当てられた会沢のほうやろが!なにぬかしとんねん!〉
〈頭に死球当てといて『ジャイアンツにアクシデント』って、ふざけるのもたいがいにせい!〉
〈上重はもう二度と実況するな!〉
〈お前が危険発言で退場処分になれ!〉
日本テレビ関係者は、困惑顔でこう語った。
「上重は『松坂世代』のひとりとして、PL学園時代に甲子園出場。その後、立教大学に進み、野球部ではエースとして活躍した元球児です。だからこそ、プロの投手が投げた硬式球が頭部に当たったらどれだけ危険かは、身をもってわかっているはずですからね。読売の系列局でもあり、ジャイアンツファンとして、とっさに口から出てしまったのでしょうが、さすがにあの場面では会沢を気遣うべきだった。残念ですが、あれは暴言とみなされても致し方ないでしょうね」
幸い会沢はすぐに立ち上がり、自力で一塁まで歩いたが、当たり所が悪ければ、大ゴトになることもある頭部死球。ついつい出た上重アナの本音が、大問題になってしまったのである。
(山川敦司)