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「パートナーが転落、宙吊りになったら?」孤高の登山家の答えは…/スポーツ界を揺るがせた「あの大問題発言」

 谷川岳ロープウェイの乗り場手前にある、大きな遭難碑。そこには、かつて「魔の山」と呼ばれた谷川岳で遭難死した、およそ800人の名前が刻まれている。

「スポーツクライミング」や「トライルランニング」などは別として、登山をはたしてスポーツと呼ぶかどうかは、登山家の中でもいまだ意見が分かれるところだといわれる。

 そんな登山家の中に「パートナーが転落、宙吊りになった時にどうするか」と問われ、

「俺なら迷わずザイルを切るね。そのために(登攀中は)いつもこうしてナイフをポケットに持っているよ」

 そう言い放って衝撃と波紋を広げた男がいた。それが夢枕獏の小説「神々の山嶺」の主人公・羽生丈二のモデルとなったとされる孤高の登山家、森田勝だ。

 17歳で本格的に登山を始めた森田は、まだ山岳救助隊もなければヘリコプターも使えない時代に谷川岳を知り尽くし、「谷川岳のならず者」として知られた東京緑山岳会会長・寺田甲子男の門を叩く。しかし何度、寺田のもとを訪ねても門前払いされた。

「緑山岳会は谷川岳を知り尽くした登山家だけが集まる山岳レスキューで、有名なクライマーを多数輩出。その陣頭指揮を執っていたのが寺田でした。彼は瀕死の遭難者に対して『助けてやるんだ、ガマンしろ』と一喝するような男でしたが、同会にはそんな彼の豪快さに魅了された屈強な山男たちが集まっていました」(山岳誌記者)

 だがいくら断られようが、森田は引かなかった。ついに根負けした寺田は1959年、入会を承諾。すると当時、金型工だった森田は「仕事を理由に山に行かないやつは山をやめろ」とばかりに、生活のすべてが「山最優先」となり、職場を転々とすることに。

 そんな森田のもとに海外遠征(南米最高峰のアコンカグア)の話が舞い込んできたのは1966年だった。しかし遠征費用を工面できず、断念。その悔しさから翌1967年、登攀は自殺行為とされていた谷川岳一ノ倉沢滝沢第三スラブを冬期初登攀し、一躍その名が知られるようになる。

 1970年代にはエベレストやK2の登山隊メンバーに選抜され、ヒマラヤ見参を果たすも、アクシデントにより登頂を逃すことに。さらにヨーロッパアルプスのグランドジョラス北壁では、仲間が転落負傷。再度挑んだソロでのグランドジョラスでも墜落し、瀕死の重傷を負った。

 だが、森田は諦めなかった。1980年2月19日、森田が運営する登山学校の村上文祐と再び登攀を開始。そして2月24日に行方不明となり、翌25日に遺体で発見された。

 遺体を回収した山岳警備隊によれば、森田はおよそ800メートル転落し、即死したとみられている。目撃情報によれば、村上が先に滑落。森田は彼を助けるため、最後まで2人を繋ぐザイルを切らず、ともに転落したのではないか、との推察がある。むろん、真相はわからない。

「俺なら迷わずザイルを切るね」

 そう語った孤高のクライマーは、42歳の若さで旅立ったのである。

(山川敦司)

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