この秋のドラマで個人的に当たりと思っているのが、フジテレビ月9「嘘解きレトリック」だ。原作は「別冊花とゆめ」(白泉社)で2012年12月号から2018年5月号まで連載されていた、都戸利津による漫画。「昭和初期を舞台に、やたら鋭い観察眼を持つ借金まみれの貧乏探偵の祝左右馬(鈴鹿央士)と、ウソを聞き分ける奇妙な能力者の浦部鹿乃子(松本穂香)の異色コンビが「ウソ」と「マコト」が入り交じる難事件を解決していく」というものだ。
漫画原作のドラマといえば「セクシー田中さん」(日本テレビ系)における、原作者とドラマ制作者側との脚本をめぐるトラブルと、その末に起きた原作者の急死という悲劇をどうしても思い起こしてしまい、それだけで「大丈夫かな」と心配になる。
だが「嘘解きレトリック」に関しては、現在までに放送済みの1話と2話を見たところ、おおむね原作からの大きな変更は見受けられない。
「フジ月9」×「漫画原作」×「ミステリーもの」というと「ミステリと言う勿れ」が思い浮かぶ。こちらはドラマが好評を博し、劇場版も製作されたが、主人公の久能整(菅田将暉)に対して風呂光聖子(伊藤沙莉)が恋愛感情を抱くという、原作にはない描写が批判を浴びた。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」じゃあないが、可哀想なことに、演じた伊藤沙莉がバッシングを受けたりもしていた(ちなみに、脚本はどちらも相沢友子だった)。
恋愛モノに走る月9の悪い癖が出た結果だが、「嘘解きレトリック」はそもそも原作に、ストーリーが進むにつれて主人公2人の恋愛感情が描かれているので、そのへんの苦情は大丈夫だろう。
ただ、原作を読んだ身としては、祝左右馬を演じるのが鈴鹿央士というのは、いささかイメージが違う。コメディー要素の部分に関しては大した問題ではないが、「嘘が分かる」という自分の特異な能力に悩む鹿乃子に対し、左右馬が優しく寄り添うように語るようなシーンでは、童顔過ぎる鈴鹿(実際、24歳と若いのだが)では、包容力みたいなものが希薄に感じてしまうのだ。
逆に浦部鹿乃子を演じる松本穂香は、かなりいい。現在27歳と鈴鹿より年上なのだが、さすがauのCMシリーズ「意識高すぎ!高杉くん」で女子高生姿を披露しているだけあって、その顔つきには幼さが残っているし、芋っぽい村娘感がその佇まいから湧き出ている。和装が似合っていることもあり、原作のキャラクターのイメージに非常にうまく寄せている。
松本というと、昨年放送された「ミワさんなりすます」(NHK総合)が思い浮かぶ。こちらも原作は「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で現在も連載中の漫画。あらすじは「大俳優・八海崇の熱狂的ファンである久保田ミワが、偶然が重なり、八海崇の家政婦として雇われた美羽さくらになりすまし、八神邸で働くことになるのだが…」というもの。
このドラマで松本は、主人公の久保田ミワを演じたのだが、「人付き合いは苦手で、気も弱いけど、大好きな映画と八海崇に対する情熱と愛は人一倍」という、久保田ミワのキャラクターそのままであった。
で、思ったのだが、「和装が似合う」「村娘感」「好きなものを語る姿」等々といった要素がいまだ発表されていない、2025年後期の連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロイン・小泉セツにぴったりなのではないか、と。
セツは元々、のちに結婚する小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の家で、住み込みの女中として働いている。「元女中とのちの夫」と「家政婦と憧れの大俳優」という関係もどこか類似性を感じるし、ミワさんが八海崇に向かって映画話をしたシーンのように、淡々としていながらも熱く、ハーンに向かって怪談を語る姿が目に浮かぶのだ。
以前、「小泉セツ役は黒木華では?」と推察した私だが、ここにきて新たに強力な候補が出現したと断言する。
(堀江南)