将棋・藤井聡太七冠のカンペなし、3分に及ぶ名スピーチが台無しになった。
鉄道好きで知られる藤井七冠は今年5月、国交省が2002年に創設した「日本鉄道賞」の選考委員に、史上最年少で選ばれた。その表彰式が10月16日に都内で行われ、選考委員を代表して藤井七冠が壇上で「選考理由や鉄道の付加価値」について語ったものの、参列者の態度が最低最悪。会場がうるさすぎて、藤井七冠の声がかき消されてしまったのである。
中日新聞や日本テレビ鉄道部が配信した「ニュース動画」を視聴すると、参列者のマナーの悪さがよくわかる。藤井七冠が話し始めても私語はやまず、男女のガヤつく声で肝心の藤井七冠のスピーチが聞き取れない。動画サイトやニュースのコメント欄には「会場がうるさすぎる」という批判が寄せられた。
10月上旬、阪急鉄道の踏切でレア車両を撮ろうとした「撮り鉄」100人が踏切から出ようとせず、地元警察が出動する事態になった。だが「日本鉄道賞」表彰式に参列する「テツ業界のトップ」鉄道会社の幹部クラスですら「人の話を黙って聞く」幼稚園や小学校レベルのマナーに欠けるのだから、末端の鉄道オタクの「業務妨害」だけを批判できまい。
参列者の雑音のせいで聞こえなかった藤井七冠のスピーチ全文は、テレビ業界一テツを愛する男、日テレ鉄道部の藤田大介アナウンサーが文字起こしをしている。傍若無人な振る舞いばかりが目立つが、鉄道ファンとはかくあるべき。一部を紹介すると、
〈まず今回、ご応募を頂いた中では、鉄道を通した地域の活性化といった視点に立った取り組みが多くあったことが印象的でした。鉄道が、安全で快適な移動手段であるだけにとどまらず、乗車体験の価値や地域の持つ魅力を発信し、鉄道と地域が相互に良い影響を与え合うことは、特に地方において鉄道の持つポテンシャルを最大限に生かすことにつながるのではないかと、そういったふうに感じました〉
藤井七冠がそんな感想を述べた今年の「日本鉄道大賞」は、新型車両がデビューしたJR西日本の「特急やくも」に。そして「特別賞」には宇都宮ライトレール「ライトライン」、元日の能登半島地震等をきっかけに構想された「病院列車構想」や「自動運転の実用化」、東武鉄道の特急「スペーシア」が選ばれた。
藤井七冠は今年、叡王戦で能登半島地震の被災地、石川県を訪れ、9月の竜王戦では福井県も訪れた。
震災で傷ついた人たちのために被災地に向かう「病院列車構想」…来年の「日本鉄道賞」で、もし藤井七冠がそのまま選考委員を務めるようならこれが現実のものとなり、将棋を通じて「地域起こし」に貢献している藤井七冠にもう少しリスペクトを示した表彰式になってほしい。
(那須優子)