「これは永遠に抱える痛みだ」
ワールドシリーズ第5戦終了後の記者会見で、ヤンキースのブーン監督はそう語り、ガックリと肩を落とした。
逆転優勝を狙うヤンキースは、これまで不調だったアーロン・ジャッジに待望の一発が飛び出し、スタンドは割れんばかりの歓声に包まれた。3回までに5点をリードし、試合の主導権を握ったが、5回にそのジャッジがまさかのフライ落球。その後もミスが続き、あれよあれよという間に5点を奪われ、最後は逆転負けでワールドシリーズを終えた。
これで飛び出したのが「松井秀喜の呪い」を指摘する声だった。この日、試合前セレモニーで、松井氏が始球式を行ったからだ。そもそも「松井の呪い」とはいったい、何を意味するのか。
松井氏はヤンキース所属時の2009年、ワールドシリーズで打率6割1分5厘、3本塁打、8打点の猛打で、日本人選手初、フル出場の指名打者としても初めてとなる、ワールドシリーズMVPに選出された。ヤンキースは9年ぶりの世界一の座に就いたのだ。
ところがシーズン終了後、ヤンキースは松井との残留交渉を行わず、翌年にエンゼルスへ移籍することに。契約満了による移籍だったが、当時の松井の実力を考えれば、単年での再契約も大いにありうる話だった。
そして松井はエンゼルスでの1年目、序盤には4番に座り、打率2割7分4厘、21本塁打、84打点、チームトップのOPS.820を残した。この数字はヤンキース最終年の打率2割7分4厘、28本塁打、90打点とさして遜色なく、ヤンキースファンは「なぜ松井を放出したのか」と疑問を呈したものだった。
どうやら今回の敗戦を機にこの時の因縁が再び持ち上がり、「これは松井の呪いだ」と…。
始球式ではスタンドから大喝采を送られた松井氏。そんな盛り上がりとは裏腹に、ヤンキース・ファンはブーン監督の「永遠に抱える痛み」の意味を噛みしめたことだろう。
(ケン高田)