2024年のプロ野球の日本シリーズは横浜DeNAベイスターズの劇的な逆転4連勝で幕を閉じたが、日本一を祝福するように、ベイスターズ関連の動画が数々アップされるなど、その余韻はまだ残ったままだ。
そんな中、26年前の1998年に、監督として横浜を日本一に導いた、野球解説者の権藤博氏の株が上がりっぱなしなのである。
10月26日に横浜スタジアムで行われた日本シリーズ第1戦で、権藤氏は始球式で登板。大投手に敬意を表して、打者としてソフトバンクの小久保裕紀監督、捕手としてDeNAの三浦大輔監督が迎えたのだが、その際の権藤氏の所作が、日本シリーズ終了後になって絶賛されているのだ。
DeNAの下剋上日本一が決まると、バックネット裏の高い位置からファンが撮ったと思しき始球式動画の再生回数が、あれよあれよという間に伸びていく。その理由は「あまりに美しい所作」だった。
マウンドに向かう時のピンとした背筋、言われなければ40代ぐらいに見える歩様のスムーズさ、審判から球を受け取るためにグラブを差し出す仕草、DeNAの先発投手ジャクソンへの洒落た敬礼、先発投手への敬意から真っ白なプレートをいっさい踏むことなく、その横に立って投球を行った投手に対するリスペクト。そして85歳とは思えない、ノーバウンドの見事なストライク投球とガッツポーズ。さらには、引き上げる際の姿が監督時代さながらだったこと…。
〈何度でも見ていられるし、何度見ても涙が出る〉
そんなコメントに、全てが集約されていた。野球ファンならずとも一見に値する「絶景始球式」だというのだ。
当の権藤氏は始球式に招かれたことについて「(自身が監督時代に)三浦監督らが活躍してくれて日本一になれたから」と謙虚な言葉で感謝の意を表している。
解説では厳しいコメントで知られる権藤氏の「野球人としての姿」は、かくして日本シリーズ史に残ることになったのである。
(田村元希)