首位と8ゲーム差3位からの、セ・リーグ下剋上の完成だった。制度とはいえ、優勝したにもかかわらず日本シリーズ出場がかなわない巨人ナインと阿部慎之助監督は、やりきれない気持ちでいっぱいだろう。
クライマックスシリーズ・ファイナル第6戦、巨人に3-2で勝利したDeNAは、7年ぶり4度目の日本シリーズ進出となった。
勝利の立役者は牧秀悟だ。2-2で迎えた9回二死三塁のチャンスで打席に立った主将は、リリーフ登板した巨人・菅野智之の3球目143キロのカットボールを左前にはじき返す決勝打を放ち、雄たけびをあげながら一塁へ向かった。牧はレギュラーシーズンでチームトップの74打点を挙げており、まさに打つべき人が打っての劇的勝利となったのである。
恨み節が止まらないのは、巨人ファンだ。打たれた菅野へのボヤきのみならず、ついには2020年のドラフト会議にまで遡ってのブーイングが出る始末。いったいどういうことか。
この年のドラフト会議で、巨人は近畿大学の佐藤輝明を1位指名したが、ソフトバンク、オリックス、阪神と競合。抽選の結果、阪神が交渉権を獲得した。この時点で、アマ野球に詳しい多くの野球ファンは、外れ1位で中央大学の牧秀悟を指名すると思っていたことだろう。ところが大方の予想に反し、亜細亜大学の平内龍太を選択したのだ。
ルーキーイヤーの牧は打率3割1分4厘、22本塁打、71打点の大活躍。以降、毎年のように好成績を残し、チームの絶対的な主軸に成長している。
平内はというと、2022年に右肘のクリーニング手術を受けて、育成選手として再契約。翌年に再び支配下登録されたものの、ここまでプロ通算4年でわずか5勝にとどまっている。
当時の巨人は二塁に若林晃弘、三塁に岡本和真、一塁にウィーラーがおり、内野に「空き」がなかった。牧が選択肢から外れた事情はあるにせよ、逃した魚はあまりにも大きすぎた。
当時、原辰徳監督は「まさに智之2世」と、菅野になぞらえて平内を大絶賛していたが、「ひらうち君」と間違って名前を呼んでいたことで、「その程度の認識か」とファンを大いに呆れさせている。
全ては結果論であり、「もしあの時…」などと言ったところでどうにもならないのだが、もし牧を1位指名していたら…。
巨人ファンの恨み節をことさら増幅させる一因なのである。
(ケン高田)