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プロ野球「オンオフ秘録遺産」90年〈“悪霧”に見舞われた日本シリーズで阪神4連敗〉

 甲子園を埋めた阪神ファンが静まり返っていた。晩秋の風が冷たい。

 2005年10月26日、阪神対ロッテの日本シリーズ第4戦は、ロッテが3対2の最少得点差で阪神を振り切った。

 ロ 0 2 0 1 0 0 0 0 0=3

 神 0 0 0 0 0 2 0 0 0=2

 ロッテは会心の4連勝で、シリーズ史上5度目の快挙。阪神は屈辱の4連敗だ。

 両チームの得点は終わってみれば4対33という衝撃の結果となった。

 ロッテ監督のボビー・バレンタインは外国人監督として初めての日本一に輝き、甲子園の夜空に舞っていた。

 監督就任2年目の岡田彰布、47歳はその姿をジッと見つめて言った。

「また日本一の目標に向かってやっていかなあかん‥‥」

 そして腹の底から絞り出した。

「宿題ができた」

 この年、ロッテは「ボビー・マジック」で勝率1位のソフトバンクをプレーオフで破り、31年ぶりにリーグを制覇した。

 岡田率いる阪神は「JFK」ことジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之の強力救援陣を擁し、金本知憲を中心とした勝負強い打撃陣で、03年以来、2年ぶり9度目のリーグ優勝に輝いた。

 両チームともに90年代は「万年Bクラス」であったこともあってか、野球ファンは大いに盛り上がったが、一方的な展開となった。

 10月22日、第1戦(千葉マリン)は7回裏1死濃霧コールドゲームだった。

 神 0 0 0 0 1 0 0=1

 ロ 1 0 0 0 3 1 5=10×

 7回表、阪神の攻撃中だった。スタンドから声が上がった。

「煙が出ているぞ!」

 正体は霧だ。上空を埋め尽くす濃霧が徐々にグラウンドへ広がっていった。

 試合はロッテ・清水直行、阪神・井川慶の投げ合いで中盤までは1点を争う好ゲームとなった。

 ロッテが5回に今江敏晃の適時二塁打などで3点を奪って勝ち越した。「マリンガン打線」が目覚めたのだ。

 7回裏、濃霧の中で里崎智也が1号3ラン。続くマット・フランコが中前打を放った。この時、審判団が協議したが、結論は「とことんやろう」だった。

 その直後にベニー・アグバヤニの一発が飛び出したが、球審の中村稔は「打球が見えない」と判断、さらに線審2人も「打球の飛び出しが見えない」と訴えた。

 日中の雨で湿度が高く、北と南からの風がぶつかって霧が発生、そのうえマリン名物の強風はなかった。ほぼ無風だった。

 午後8時31分に中断が決まった。

 試合管理人のNPBは気象情報を確認した。午後9時時点の情報で「2時間後の11時になってもこの状態が続く」の報告があり中村に伝えた。

 試合開始後は一時停止、再開などの決定の権限すべて球審に与えられている。最終的に中村が「2時間、この状態が続くなら再開できない」と判断した。

 日本シリーズは交流戦と同様にサスペンデッドを採用しておらず、コールドゲームとなり午後9時5分、試合が終了した。

 濃霧コールドは公式戦で4度あるが、50年から始まった日本シリーズ(最初は日本ワールド・シリーズの名称)では55年目にして初の珍事となった。

 岡田は想像しない幕切れに「しょうがない」と言いながらも「終わり方がスッキリせんけどなあ‥‥」と漏らしたのだった。

 阪神にとっては〝悪霧〞が呼んだ「悪夢の4連敗」の始まりだった。

 10月23日・第2戦(千葉マリン)

 神 0 0 0 0 0 0 0 0 0=0

 ロ 1 1 0 0 0 5 0 3×=10

 マリンガン打線が猛威を振るった。3本塁打を含む12安打で史上初の2試合連続2ケタ得点で圧勝した。今江は8打席連続安打のシリーズ新の金字塔を打ち立てた。

 阪神は金本と今岡誠(現・真訪)が2試合続けて無安打、チーム全体でも4安打と振るわない。岡田は吐き捨てた。

「JFKの出番? あるかいな。こんな展開で」

 阪神の一縷の望みは甲子園に帰っての出直しだったが、ロッテの勢いは止まらず、いや増すばかりだった。

 10月25日・第3戦(甲子園)

 ロ 0 1 0 2 0 0 7 0 0=10

 神 0 1 0 0 0 0 0 0 0=1

 ロッテがセの最多勝・下柳剛を早々にKO、JFKの一角・藤川を粉砕し、10安打10得点で圧勝して王手をかけた。3試合連続2ケタ得点で、さらに記録も更新した。

 阪神は4番・金本が依然として無安打、1点を取るのがやっとだった。

 なんとか一矢を報いたい阪神だが、どうにもならなかった。

 岡田に悲壮感がにじみ出た。

「ここまできたら開き直ってやるしかない」

 だが、第4戦もロッテにあしらわれた。

 ロッテは2回、李承燁が先制の2ラン、4回にも適時二塁打を放った。阪神は6回、今岡、桧山進次郎の適時打で1点差に詰め寄ったが、そこまでだった。

 MVPは4試合で10安打、打率6割6分7厘の今江が獲得した。

「パとセの野球の違い」「一番の違いはバットスイングの速度の違いだ。パの打者の豪快なスイングを見たらセの投手は逃げ出したくなるのでは」など阪神の敗因が取り沙汰された。

 それもそうだが、岡田には時の勢いがなかったのかもしれない。

 宿題を解決したのは18年後の23年だった。オリックスを破り、阪神を38年ぶりの日本一に導いた。

 翌24年は2位に終わった。連覇を例えた「アレンパ」はならなかった。ユニホームを脱いだ。

 今江は15年オフ、FAを宣言して楽天に移籍。引退後は楽天のコーチとなり24年に指揮を執ったが4位、わずか1年で契約解除となった。

(敬称略)

猪狩雷太(いかり・らいた)スポーツライター。スポーツ紙のプロ野球担当記者、デスクなどを通して約40年、取材と執筆に携わる。野球界の裏側を描いた著書あり。

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