「シャーデンフロイデ」とは、いわば「他人の不幸は蜜の味」といった感情を指すドイツ語。それをテーマにした映画が、その名も「石とシャーデンフロイデ」(白磯大知監督/新宿K’s cinemaで11月29日まで公開)だ。
ひとりの女性をめぐって、心を閉ざした男が、事故死した友人への気持ちを抱えながらも、自分の人生を諦められない。そんな不器用で優しい姿を描くヒューマンストーリーだという。
作品の公式解説にはこうある。
〈ヒトシの友人は数年前にバイクの事故で死んだ。ただ、ヒトシが心を閉ざし始めたのはそれよりも前のことだ。事故で死んだ友人の妻・美緒は、当時ヒトシと恋人関係だった。しかし、美緒はヒトシとの交際中、その友人と深い関係になりヒトシに別れを告げたのだ。死んでしまった友人へのやるせない気持ちと、今は隣にいない美緒の存在をどこか感じながら、ヒトシは今も自分の思いと向き合わず、言い訳とともに生きるのだった〉
ここに登場する重要な役割、シングルマザーとなった美緒を演じる田中美晴に直撃インタビュー。なにしろ、初めての人妻役である。
「私自身、まだ結婚や出産を経験していないので、難しい部分がありました。ただ、母や妹の子育ての様子をよく観察したり、姪っ子と接する中で、役作りをしました。美緒がどのように考え、どう生きているのかを模索しながら演じましたね。苦しい部分もありましたが、とても楽しい時間でした。撮影中、美緒としてそこに存在できたように感じています」
1992年生まれの田中は2005年に「第1回アミューズお姫様オーディション」でグランプリ を獲得して芸能界入り。映画「とおいらいめい」(2022年)や「Be Here Now」(2023年)などに出演しつつ、テレビドラマやCM出演をこなし、現在は仏日合作品など海外にも活動を広げている。台湾の映画祭「金片子大賽」では最優秀女優賞を受賞。本作「石とシャーデンフロイデ」でも「第24回TAMA NEW WAVE女優賞」にノミネートされた。
さて、オーディションで初めて台本を読んで演じた時と今とでは、美緒という役の印象は変わったのかと聞けば、
「変わりました。とはいえ、オーディションと撮影は3年以上も前のことなので、どこがどう変わったのか明確には難しいのですが…。オーディション当時は、美緒は後悔を抱えながら生きている女性だと思って演じた記憶があります。ですが、今は少し違います。後悔や負い目を抱えながらも、それでも子供との生活のために必死に生きる女性だと感じていますね」
撮影中、とりわけ時間を要したシーンがある。聞けばなんということはなさそうな場面に感じるのだが、
「終盤、圭太(美緒の夫)がお茶をこぼすシーンです。実はあのシーン、2日間かけて撮影しました。白磯監督がじっくり撮ってくださったので、納得のいくシーンになったと思います。実際、劇場にお越しいただいた方々から『あのシーンが印象に残った』と言っていただけることが多く、とても嬉しいですね」
そして田中は今後の自分になぞらえながら、こう語った。
「映画に映っているのは登場人物の生活の一部にすぎませんが、その背景やそれ以外の時間も、ちゃんと『生きている』と感じてもらえるような役者になりたいです」
ちなみに、この作品の経験から母親役に目覚めたようで、
「美緒とは全く違う環境で生きる母親の役をやってみたいです。ひと口に母親といっても、裕福な家庭や貧しい家庭、平和な家庭、平和に見えて深い問題を抱えている家庭など、環境は様々だと思います。中でも美緒とは異なる人生を歩むような母親を…。ついでに言えば、独り身を謳歌する女性の役も面白そうだなと思いますね。最近まで1年半ほど台湾で生活していたので、中国語を生かせる役や、旅人の役にも挑戦してみたいです」
最後に聞いてみた。彼女にとっての「シャーデンフロイデ」とは何か。
「どうしても身近に存在し、切り離せないものだと思います。ただ、それが必ずしも悪いものではないとも思っています。シャーデンフロイデとうまく付き合いながら生きていきたいです」