自民党政権時代の「予算のムダ」を洗い出す「事業仕分け」で、2009年11月13日、与党民主党の蓮舫参議院議員がスーパーコンピューター開発に関して言い放った「2位じゃダメなんでしょうか」。このセリフを記憶している人は多いはずだ。
やり玉に挙がったのは、当時1200億円もの国家予算を投じ、理化学研究所(理研)と富士通とで世界一を目指して共同開発を進めていたスパコン「京」の開発計画だった。
蓮舫氏は「世界一になる理由には何があるのか」と、科学者が腰を抜かすような発言を繰り返し、出された結論は「限りなく見送りに近い縮減」。つまり、計画の「凍結」だった。
この「事業仕分け」の真の目的は、税金の無駄遣いの根絶。だが17兆円の財源を生み出すことを公約に掲げた民主党の「政治ショー」的匂いがプンプン漂っていた。
なんでもかんでも「凍結ありき」な出来レースとの批判が噴出し、案の定、文科省には抗議が殺到。知識人からの相次ぐ反対表明もあって、翌月には凍結方針を撤回することになる。
ところが、そんな蓮舫氏に暴言を放って大ヒンシュクを買ったのが、平沼赳夫元経産相だった。2010年1月17日、新党結成に向けて各地で活動中だった平沼氏は、地元の岡山市内で開催した後援会パーティーで政府の事業仕分けを批判、こうブチかましたのである。
「言いたくないが、言った本人はもともと日本人じゃない。キャンペーンガールだった女性が帰化して日本の国会議員になって、事業仕分けでそんなことを言っている。そんな政治でいいのか」
新党結成前とあってパーティーには多くの報道陣が入っていたため、平沼氏に詰め寄ることに。取材に対応した平沼氏は悪びれる様子もなく、平然とこう言ってのける。
「差別ととってもらうと困る。日本の科学技術立国に対し、テレビ受けするセンセーショナルな政治は駄目だということ。彼女は日本国籍を取っており、人種差別ではない」
確かに平沼氏はかねてから、永住外国人への地方参政権付与に反対する立場をとっており、公式サイトでも「永住外国人が参政権を得るためには、法律どおり日本に帰化することが妥当だ」と主張していた。
ただ、この発言は日本人以外は日本の政治に口を出すな、と言っているのと同じ。さらにはルーツを攻撃して口封じをしたといわれても仕方がないことから、批判は強まっていく。
それでも平沼氏は「撤回するような発言はしていない」と強気の姿勢を崩さず、蓮舫氏も「直接発言を聞いたわけではないので、コメントする立場にない」と大人の対応。この大暴言騒動は時の流れとともに、記憶の彼方へと消えていった。
ちなみに、蓮舫氏が「2位じゃダメなんでしょうか」と問われたスパコン「京」の構造を踏襲した「富岳」が2020年、世界一を奪還。あの騒動はいったい何だったのだろうか。
(山川敦司)