新潟県佐渡市で11月24日に開催された、世界文化遺産「佐渡島の金山」の朝鮮半島出身者を含む労働者の追悼式に、韓国政府が政府代表の派遣を見送った。これは日本政府を代表して参列した生稲晃子外務政務官が、過去に靖国神社を参拝したことを問題視したためだという。
韓国メディアが「根拠」としたのは、共同通信が2022年8月15日に配信した記事だった。「岸田政権発足後初の終戦の日で、靖国神社に参拝した国会議員は、自民党の生稲晃子参院議員ら20人超だった。共同通信社が取材で確認した」というものだ。だが当の生稲氏は「参拝していない」と否定している。
林芳正官房長官も11月25日の記者会見で、次のように語っている。
「生稲氏は参院議員就任後に靖国神社を参拝した事実はないと承知しており、韓国側に事実関係を説明した」
共同通信は今回の韓国の対応を受けて、生稲氏の靖国神社参拝記事を検証した結果、「報道は誤りだった」として誤報を認めた。靖国神社の境内に入ったとされる「証言」は「見間違え」によるものだったという。
生稲氏はとんだトバッチリを受けた格好だが、自民党中堅幹部は政府の対応を痛烈に批判する。
「本来、靖国神社に参拝していようといまいと関係ないことで、靖国参拝を政治利用するのが問題だ、と反論すべきだった。石破政権の対応は、韓国側が敷いたレールに乗ってしまっている」
靖国参拝をめぐっては、中国は戦後長らく、首相らの参拝を問題視することはなかった。極東国際軍事裁判でのA級戦犯14人が国家の犠牲者「昭和殉難者」として靖国神社に合祀されたのは1978年10月のことだったが、中国が突然、靖国参拝を批判したのは7年後の1985年。韓国はこれに追随して批判を始めた。日本メディアが中国や韓国に「ご注進」し、日本政府が「弱腰外交」を繰り返したため、靖国参拝が中韓の「外交カード」となってしまった。
生稲氏にとっては「ここは参拝してようとしていまいと、韓国には関係ないことだ」と言い切るいい機会だ。それができたら「生稲株」は上がるはずだが、はたしてできるかできないか。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)