社会

「リンパ腫が疑われます」CTの画像を見ながら医師は言った/東大病院でガン治療を受けた猫②

 猫の珍しい病気「気管虚脱」と診断されたTさんの愛猫ミカンちゃん。かかりつけ医が処方してくれた抗生剤と炎症止めが効かなくなったので、Tさんはスマホで近所の動物病院を検索しまくった。口コミの評価などもチェックして「これは」と思った病院に連れて行き、レントゲンを撮ってもらうなどの診察を受けた。

 だが、診断の結果を聞いて、Tさんはますます不安を募らせることになる。見せてもらったレントゲンの画像では、ミカンの気管は春先よりもさらに狭くなっていた。獣医師は次のように説明した。

「これは単なる気管虚脱ではないかもしれない。もっと設備が充実した大きな病院で診てもらった方がいいでしょう。紹介状を書くので、それを持って受診することをお勧めします」

 まるで人間のガン治療みたいである。その病院ではステロイドを処方してくれた。最初の1週間は呼吸音が一緒でミカンは苦しそうだったが、その後にメキメキと回復し、苦しそうな鳴き声はやんだという。

 紹介してもらった病院は「東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センター」だった。ほとんどの人が「東大に動物病院なんてあるのか」と思うかもしれない。

 3年前に死んだ我が家の猫、ジュテ(写真)はセカンドオピニオンのため、かかりつけ医に豊島区内にある「目白通り高度医療センター」への紹介状を書いてもらった。その際の病院の候補のひとつに、東大の動物病院があった。「へぇー」と思ったものである。

 Tさんは早速、東大動物医療センターにミカンちゃんを連れて行った。病院ではCTと気管鏡の検査を行う予定だった。しかし、どちらも全身麻酔で行われる。呼吸するのに苦しんでいる猫の喉に管を入れる気管鏡の検査は厳しいし、麻酔にリスクがあることは事前に調べてわかっていた。医師にそんな事情を話すと理解してくれて、CTだけをやることになった。

 CTの場合は麻酔をせず、小さな箱に入れて撮ることもできるという。

「ミカンは大人しい猫なので、先生は『麻酔なしでやりましょう』と言ってくれた」

 とTさんは言う。

 医師はその場で撮ったCTの画像を見ながら、説明してくれた。

「リンパ腫が疑われます」

 つまり、ガンである。画像を見ると、気管に腫瘍ができているのがわかり、気管は春先より明らかに狭くなっている。

「もう頭が真っ白。どうすればいいのか」

 Tさんがパニックになったのは言うまでもない。治るのか、治っても以前と同じように生活できるのか、さらにお金はいくらかかるのだろうか…。そんな思いの中、ミカンちゃんはその日から抗ガン剤治療を受けることになった。

 そんな検査の話を聞いていて思い出したのが、我が家のジュテのことだ。ジュテはCTや手術を検討したものの、ガンが進行していること、体重が減り、体力がないのに麻酔をするリスクが大きいことなどを指摘され、諦めてそのまま引き上げるしかなかった。

 ところで、前回書いたが、ミカンちゃんだけでなく、Tさんもナゾの病気に襲われることになる。ミカンは単なる気管虚脱なのか、もっと重篤な病気なのかと思うと夜も眠れない…そんな日々が続いていた時のことだ。

 ミカンちゃんは元々、Tさんの母親が引き取って、大切に育てていた猫。今はTさんと娘が育てているが、母親がかわいがっていた猫にもしものことがあったら…と悶々としていた。

 そんな折、仕事中に友人から、

「あなた、さっきから同じことを何回も言ってるわよ」

 と指摘され、そのうちに意識を失い、救急車で運ばれ、気が付いたら病院のベッドにいた。枕元には「記憶障害のため、入院されています」という貼り紙があったそうだ。

「私は何が何だかわからなかったわ」

 とTさんは言う。

 Tさんを襲ったのは「全健忘症」なるもので、これは大きなショックで一時的に記憶がなくなる病気。意識がなくなるのが丸一日という、不思議な症状である。

「今から思えば、ミカンに何かあったらどうしようというストレスで、頭が変になっていたんでしょうね」(Tさん)

 ミカンは今も元気だが、次回は人間顔負けの、猫の最先端医療についても触れてみたい。

(峯田淳/コラムニスト)

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