海外FA権を行使した九里亜蓮がオリックス入りを表明したことで、広島カープの鈴木清明球団本部長は「リスト(プロテクト名簿)を見て、いつも通りの段取りで考えます」とコメントし、人的補償の権限行使に含みを持たせたが、実際に獲得できるかどうかは不透明だ。というのも、
「現役ドラフトを終えた後ですからね」(球界関係者)
これはどういう意味か。支配下選手数の問題が出てくるのだ。一球団が抱えられる支配下選手数は70人である。
12月2日に公示された広島のその人数は、59人だった。ここに支配下で今秋のドラフト会議で指名された5人が加わる。これで64人。新外国人野手のエレフリス・モンテス、サンドロ・ファビアン、ジョハン・ドミングスの獲得もすでに発表している。この3人を足せば67人だ。
12月9日の現役ドラフトでは矢崎拓也を失ったが、山足達也と鈴木健矢を獲得した。広島は3回目を迎えた現役ドラフトで、初の2位指名に踏み切った。これでさらに1人が増え、ここまで合計68人。つまり、九里喪失に伴う人的補償を実行すれば支配下選手数は69人となり、「残り1人」で来春キャンプを迎えることになる。ここで問題となるのは、
「残り1となれば、支配下登録を目指す育成選手のモチベーションに影響してきます。シーズン中、主力選手に大きなケガがあった場合、緊急獲得やトレードも難しくなってくる」(スポーツ紙デスク)
そもそも広島は、外国人選手の獲得を決めるのが早い。渉外担当者への信頼、現地コーディネーターの手腕によるものだが、それと同時に「マネー戦争には参加しない」という強い信念がある。今オフもその信念に従って、早期に新外国人選手の獲得を決めたわけだが、人的補償を求めれば、「支配下枠は残り1」のリスクが生じる。そのため、
「今回は金銭のみになるかもしれない」(前出・球界関係者)
とする見方が強まってきた。
「九里がメジャーリーグ球団との交渉に失敗した場合、広島は帰還交渉をするつもりでした。気心の知れた九里を迎えて『69人』になるのと、人的補償でそうなるのとでは、チームに及ぼす影響が違ってきますからね」(前出・スポーツ紙デスク)
「マネー戦争はしない」のクリーンさが裏目に出てしまった形だ。新井貴浩監督は頭が痛いのではないか。
(飯山満/スポーツライター)