床田寛樹の大トリ更改を12月16日に終え、これで広島カープは全支配下選手が契約更改を行った。今年も保留した選手はひとりもおらず、11年連続で契約更改保留者ゼロとなった。
広島の契約更改といえば、ファンの間でおなじみなのが「鈴木本部長」こと鈴木清明常務取締役球団本部長だ。2015年の黒田博樹、新井貴浩のカープ復帰、2022年の秋山翔吾の入団の際に、球団側の交渉責任者を担当するなど、松田元オーナーの側近である。
12球団の中でも赤字を補填する親会社を持たない広島は、選手の年俸をできるだけ抑える必要があり、選手との「銭闘」をいっさい生じさせない鈴木本部長の交渉力の高さは、驚くべきものがある。
とりわけ伝説として語られるのは、2006年オフの契約更改交渉だ。この年、ブラウン政権下の広島はシーズンを5位で終え、9年連続のBクラスとなった。
ところが横山竜士ら中継ぎ投手が「中継ぎの評価を見直してほしい」と口を揃え、全員が契約を保留。さらに17ホールドポイントで中継ぎ陣最年長の高橋建が、契約更改の席で「自分のことより、中継ぎ全体の評価を見直してもらう」と発言。「広島中継ぎの乱」と呼ばれた。
鈴木本部長は黒田の残留交渉で不在だったが、まさかの緊急事態にキャンプ地の宮崎へ乗り出すと、高橋はわずか1日で現状維持のまま陥落。その後も中継ぎ陣が続々と、マイナス査定でのサインを余儀なくされ、鈴木本部長の手腕がいかんなく発揮されたのである。
2013年には現打撃コーチの小窪哲也が、鈴木本部長から提示された1500万円を保留。その後の交渉で、まさかの15万円減の1485万円でサインさせられたという逸話も残っている。
数々のエピソードをみると、うまく人を丸め込むような人物像を思い描くが、実は人情派。2022年オフに、丸佳浩の人的補償で獲得した長野久義を「いつかユニフォームを脱ぐことがあるとすれば、巨人じゃないか」と、無償トレードでの巨人帰還を提案したのも鈴木本部長だった。
広島の選手が毎年、保留することなくサインするのは、そんな鈴木本部長の人柄によるところが大きいのである。
(ケン高田)