社会

ホントーク〈佐滝剛弘×名越健郎〉(3)大阪万博は観光の起爆剤にならない

名越 政府は「観光立国」を目指していますけど、問題はたくさんありますね。

佐滝 最初に言い始めたのは小泉内閣です。そこから自民党に代々受け継がれてきました。

名越 この本にも「自民党の長老有力者が観光業界を長年牛耳ってきた」と書いてあります。

佐滝 自民党は地方出身が多いからです。地方を活性化するためには「多くの雇用を生み、お金を落とすのは観光業」と思っているので、余計に観光に力を入れているように思います。

名越 今年のインバウンドは約3500万人と史上最高に達しそうです。2030年までに政府の目標は6000万人だそうですが、達成できるのでしょうか。

佐滝 すんなりとはいかないと思います。日本は陸路で入れないので、結局は飛行機の便数に制限されます。6000万人が来るだけの飛行機の便数を将来的に国内の空港で増やせるのかという問題もあるし、観光人材も足りないでしょう。

名越 インバウンドを倍増させることよりも、オーバーツーリズムの対策を急がないと、これからが不安になります。

佐滝 実はすでに問題は切実です。「日本に来るな」「外国人は迷惑だ」などとネットでは外国人を嫌う声が出始めています。本来、観光の趣旨は文化交流ですが、真逆になっています。外国人と仲よくなるのではなく、迷惑に感じているわけですから。

名越 今後の観光についてですが、来年は「大阪万博」が開催されます。観光客誘致の起爆剤になるのでしょうか。

佐滝 日本国際博覧会協会は日本人も含めた総入場者数の目標を2750万人、海外からは約350万人と掲げています。ですが、日本人でも魅力に感じる人が少ないのに、海外から万博をわざわざ見に来る人が押しかけるとは思えません。

名越 1970年の大阪万博は、来場者が6400万人ぐらいでした。私も2回行って「月の石」を見るのに3時間並びました(笑)。

佐滝 前回の大阪万博は、日本がもっとよくなるという期待の中で近未来の一端を見せてもらいました。しかし、今回の万博は下り坂に差しかかりつつある日本の現実を確認する場なのかもしれません。

名越 観光がこれからの時代で果たす役割とは、どのようなものでしょうか。

佐滝 観光は、市民同士の国際交流の最前線です。「平和の砦」と言い換えてもいいでしょう。知らない土地や風土に触れ、そこに暮らす人をリスペクトする。手軽に情報が手に入る時代だけに、実際にその地を体感する「リアル体験」が何よりも重要なのです。

ゲスト:佐滝剛弘(さたき・よしひろ)1960年、愛知県生まれ。東京大学教養学部卒。NHKディレクターとして「クローズアップ現代」などの番組制作に携わったのち、高崎経済大学、京都光華女子大学を経て、城西国際大学観光学部教授。「『世界遺産』の真実 過剰な期待、大いなる誤解」「観光公害 インバウンド4000万人時代の副作用」など著書多数。

聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。

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