スポーツ

二宮清純の「“平成・令和”スポーツ名勝負」〈“サンドニの惨劇”から得た教訓〉

フランス VS 日本」国際Aマッチ・2001年3月24日

「フランス代表にサンドニで0対5で負けた試合が一番ショックというか、印象に残っている」

 サッカー元日本代表で02年日韓大会、06年ドイツ大会、10年南アフリカ大会とワールドカップに3大会連続出場を果たした稲本潤一は、引退記者会見の場で、そう話した。

 続けて、こうも。

「あの当時、僕は海外に行きたいという思いが強く、代理人もこの試合を見ていた。もう、それが全部なしになるくらいのショッキングな試合。世界との差を、ものすごく感じました」

 2001年3月24日(現地時間)。パリ近郊サンドニのフランス競技場。スタジアムは7万7000人の大観衆で埋まった。

 国際Aマッチ、フランス代表対日本代表。W杯の自国開催を翌年に控えた日本にとって、世界王者のフランスは、腕だめしに最高の相手だった。

 芝は雨に濡れていた。日本の選手たちは、ぬかるんだピッチに足を取られ、しばしばバランスを崩した。

 先制したのはフランス。前半9分、ペナルティーエリア内で松田直樹がロベール・ピレスを押し倒し、エースのジネディーヌ・ジダンにPKを決められた。

 その4分後の13分、フランスの右サイドがスパークする。ピレスのスルーパスに抜け出したティエリ・アンリのシュートをGK楢崎正剛が捕り損ねた。これで0対2。

 日本は司令塔の中田英寿を起点に攻撃を組み立てようとするが、すぐにボールを奪われ、劣勢に立たされる。有効な攻め口が見つからないまま前半を終えた。

 日本は前年6月、モロッコで開催されたハッサン2世国王杯の準決勝でフランスと対戦し、PK負けを喫したが、90分間は2対2と好勝負を演じた。

 それもあって善戦が期待されたのだが、モロッコでのフランスと今回のフランスは、まるで別のチームのようだった。稲本は「前のフランスは手を抜いていた」とまで言った。

 後半の7分、日本にも見せ場が訪れる。ぬかるんだピッチでもバランスを崩さない中田がドリブルで持ち込み、左足で強烈なミドルシュートを放った。GKにセーブされたが、スタジアムが一瞬どよめいた。

 11分、フランスはジダンのコーナーキックからつながったボールをシルヴァン・ヴィルトールが頭で叩き込んだ。0対3。

 17分、ヴィルトールのスルーパスに反応したダヴィド・トレゼゲが右足で流し込んだ。0対4。

 日本の最終ラインはフラット3。フィリップ・トルシエ監督の代名詞とも言える戦術だが、フラットな並びの間を突かれた。

 そして24分、再びトレゼゲの右足が火を噴く。ジダンがカットしたボールが左サイドに渡り、最後はトレゼゲが仕留めた。これで0対5。日本は完膚なきまでに叩きのめされた。

 再び引退会見での稲本。

「自分のタイミングでボールを取りに行けば、どんな相手からも取れるという自信があった。だがジダンだけは違っていた。あのエレガントなプレーには、正直言ってかなわないと思いました」

 GKの楢崎は、後年私にこう語った。

「あれほど精神的にこたえた試合はありません。気持ちが癒えるのに1年かかりました」

 世に言う“サンドニの惨劇”。世界王者のレッスンは、あまりにも過酷で無慈悲だった。

二宮清純(にのみや・せいじゅん)1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。最新刊に「森保一の決める技法」。

カテゴリー: スポーツ   タグ: , , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    なぜここまで差がついた!? V6・井ノ原快彦がTOKIO・国分太一に下剋上!

    33788

    昨年末のスポーツニュース番組「すぽると!」(フジテレビ系)降板に続いて、朝の情報番組「いっぷく!」(TBS系)も打ち切り決定となったTOKIOの国分太一。今月30日からは同枠で「白熱ライブ ビビット」の総合司会を務めることになり、心機一転再…

    カテゴリー: 芸能|タグ: , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<寒暖差アレルギー>花粉症との違いは?自律神経の乱れが原因

    332686

    風邪でもないのに、くしゃみ、鼻水が出る‥‥それは花粉症ではなく「寒暖差アレルギー」かもしれない。これは約7度以上の気温差が刺激となって引き起こされるアレルギー症状。「アレルギー」の名は付くが、花粉やハウスダスト、食品など特定のアレルゲンが引…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , , |

    医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<花粉症>効果が出るのは1~2週間後 早めにステロイド点鼻薬を!

    332096

    花粉の季節が近づいてきた。今年のスギ・ヒノキ花粉の飛散量は全国的に要注意レベルとなることが予測されている。「花粉症」は、花粉の飛散が本格的に始まる前に対策を打ち、症状の緩和に努めることがポイントだ。というのも、薬の効果が出始めるまでには一定…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , , |

注目キーワード

人気記事

1
エスコンフィールドに「駐車場確保が無理すぎる」新たな問題発覚!試合以外のイベントでも恨み節
2
これも「ラヴィット!」効果…TBS田村真子アナ「中日×巨人で始球式」に続く「次に登板するアナウンサー」
3
日本人に大打撃!タイ政府「外国人締め出し」で長期滞在とビザ取得が困難に…そして口座凍結まで
4
ヤクルト・村上宗隆「上半身のコンディション不良」って何?「ポスティング移籍金」に影響するからと…
5
【NHK朝ドラ】今田美桜と河合優実の「見事なあんぱん」が弾む出色CMがコレだ!