2024年のプロ野球はセ・パ両リーグ合わせて観客数が2668万1715人となり、5年ぶりに過去最多を更新した。野球離れが叫ばれて久しいが、やはり日本人にとって、野球は最も身近なスポーツのひとつと言えるだろう。
特にパ・リーグは、かつてのガラガラの球場を知るファンとしては、隔世の感があるのではないだろうか。1970年から80年代にかけては、スタンドに観客がほとんどいない状態で試合が行われたことは少なくない。V8を達成した1972年の巨人は、単独で230万5500人を動員しているが、パ・リーグは全体で253万9800人とほぼ同数。いくら巨人が人気球団とはいえ、パ・リーグの全球団が集まってやっと超えることができたというのだから、いかに人気がなかったかがわかるだろう。
今はなき南海ホークスの本拠地・大阪球場では、ガラガラのスタンドで紙飛行機を飛ばす客がいたという。37度という急斜面のすり鉢状だったことから、上昇気流に乗り、なかなか落ちてこなかったのだとか。あるいは、たびたび酔っ払いが転げ落ちたという逸話も残っている。
かつてロッテ・オリオンズが本拠地にした川崎球場も、観客の少なさはかなりのものだった。閑古鳥がこれでもかと鳴きわめくスタンドでは、ファンが七輪を持ち込んで焼肉をしたり、夏場には流しそうめんを楽しむだけでなく、カップルが堂々とキスをしていたというのだから…。現在のパ・リーグしか知らない若いファンは、にわかには信じられない光景だろう。
コロナ禍の2020年、日本トップリーグ連携機構の川淵三郎会長は、「無観客試合」に代わる名称の提案をSNSで呼びかけた。NHK「ニュース9」でこのことを報じた際、送られてきた「昭和のパ・リーグ川崎球場」というネーミングに、30代の和久田麻由子アナは「川崎球場? どういうことですか」と首を傾げたが、年配の男性アナの「静かな球場ってことです」という返事に、思わず笑ってしまった野球ファンは多かったのである。
今では笑いのネタになるほどの当時の観客数だが、そんな時代を経て、現在の大盛況の野球界があるのは事実。近年はマツダスタジアムやエスコンフィールドのような「ボールパーク」が人気になっている。築地市場再開発で巨人の新本拠地となるスタジアム構想が取り沙汰されているが、実現すればさらに多くのファンが球場に足を運ぶことだろう。
(ケン高田)