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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「脱・猪木!棚橋がユークス新体制の象徴に」

 2005年11月14日、株式会社ユークスに買収されて同社の子会社になった新日本プロレスは、年明け早々に大激震に見舞われた。06年1月10日から始まった契約更改で、退団者が続出したのである。

 ユークス新体制への不安と疑念、一度は退団した長州力の現場監督復帰に対する反発、経営立て直しのための大幅なギャラダウンに対する不満など、様々な要素が重なって西村修、吉江豊、後藤達俊、長井満也、ヒロ斎藤、竹村豪氏、成瀬昌由、ブルー・ウルフ、長尾浩志、田中秀和リングアナウンサーが退団。安沢明也は現役引退を発表して11名もの選手が離脱した。

 さらに1月28日にブラック・キャットが51歳の若さで急性心不全により他界、3月28日にはスカウト担当及び法人営業部長を務めていた木村健悟が退社。

 そして旗揚げから新日本に参加し、社長も務めた藤波辰爾が6月30日付で退団。先に退団した選手たちと合流して8月2日、後楽園ホールで無我ワールド・プロレスリング(現ドラディション)を旗揚げした。

 だが、こうした動きはリング上を含めた会社の新陳代謝、世代交代につながった。リング上の最大のテーマは、前年05年10.8東京ドームにおける藤田和之、蝶野正洋との3ウェイマッチに勝利してIWGPヘビー級王座をアメリカに持ち帰った、ブロック・レスナーから誰が奪回するかだったが、そこで年功序列などに関係なくキャリア6年半、29歳の棚橋弘至が抜擢されたのだ。

 春の最強決定トーナメント「ニュージャパンカップ」に優勝したジャイアント・バーナードが「俺が日本にベルトを取り戻す!」と5.3福岡でレスナーに挑んだが惜敗。

 この事態に新日本が夏のビッグマッチの7.17札幌月寒ドームの挑戦者に指名したのは「ニュージャパンカップ」準優勝の永田裕志ではなく、同大会で永田に敗れている棚橋。この思い切った器用の理由を長州現場監督は「最終的に永田か棚橋ということになり、会社の意向‥‥大きな大会では営業と〝どういう選手がいいのか〟をいろいろ話し合う中で棚橋に決定しました」と語った。

 新体制は猪木イズム、ストロング・スタイルに縛られることなく、若いファンに受け入れられることを模索。ゲームソフトを手掛けるユークスにとって「若者が憧れるカッコいい選手」が絶対条件であり〝太陽のような明るさを持つ棚橋”に未来を託したのである。

 棚橋はファン、選手たちの信頼を得るために懸命に戦った。6.18後楽園ではバーナードとの一騎打ちにも勝って「僕を信じてください。絶対に獲ります!」とファンに約束。7月シリーズの各会場には必勝ダルマ、ライオンマークのフラッグが置かれ、ファンの応援メッセージが書かれたフラッグを背負ってレスナー戦を迎えることになった。

 だが、新日本はどこまでもついていない。決戦2日前になってレスナーの来日中止及び王座剝奪を発表する事態に陥ったのだ。 突然の来日中止の理由は、契約上のトラブルによりビザの取得が困難になり、来日が不可能になったとのことだったが、最終的に契約条項が合意に達しなかったというのが真相のようだ。

 この緊急事態に、常にポジティブな棚橋も「もしプロレスの神様がいるなら、一度でいいから助けてください」と唇を嚙んだ。

 新日本は月寒ドームのチケットの払い戻しを受け付けることを決め、レスナーVS棚橋の代わりに棚橋、バーナード、永田、トラヴィス・トムコ、天山広吉、曙の6選手による王座決定トーナメントを開催することを発表。ファンに最大限の誠意を見せたのである。

 1回戦シードとなった棚橋はトムコに勝って、2回戦に上がってきた永田をグラウンド・コブラツイストで撃破して、春のトーナメントの雪辱を果たすと同時に王座決定戦に進出。

 もう一方のブロックでは、1回戦シードになったバーナードが天山に勝った曙を撃破して王座決定戦へ。

 棚橋VSバーナードによる決勝=王座決定戦は観客が棚橋を後押しして異常な盛り上がりを見せ、棚橋がスリングブレイドでバーナードを撃破した瞬間、ファンがリングサイドに殺到。レスナー来日中止で最大の危機に追い込まれた新日本だが、最後はファンと一体になる最高のハッピーエンドとなった。

 10月9日の両国における初防衛戦の相手は8月の「G1クライマックス」で優勝した難敵・天山だったが、スリングブレイド連発、投げっぱなしドラゴン・スープレックス、仕上げはハイフライ・フローという完璧な畳み掛けで勝利すると「両国の皆さん、愛してま~す!」と叫んだ。

 プロレスラーが愛を叫ぶとは、猪木時代にはあり得なかったことだが「団体が本当に苦しい時に観にきてくれるお客さんはかけがえのない存在。噓偽りのない言葉です」と棚橋。

 棚橋はユークス新体制において脱・猪木の象徴的存在になった。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

写真・ 山内猛

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