アナタが飼っている猫には普段、どんなごはんを食べさせていますか。
猫についてのとてもシンプルなテーマだが、愛猫家の間でも意見交換することは少ない、と感じている人はいないだろうか。
テレビには食レポ番組が氾濫している。だが、猫を飼う人が増え続けているのに、なぜか猫の食べ物に関する情報は少ない。理由はイマイチわからないが、猫が何を食べているか、我が家の猫たちについて具体的に書いてみたい。
その前に…猫の食べ物に関して、とても驚いたことがあった。ある著名な脚本家が飼っている猫がごはんを食べないのに悩んで、知人に相談。知人は「あなたはいつも、どんなものを猫に食べさせているの?」と聞いた。
その脚本家はペットフードとして売っている、大きな袋に入った同じカリカリを、飼い始めてからずっと食べさせていると答えた。それを聞いた知人は呆れてこう言った。
「あなた、それは猫が毎度毎度、同じ食べ物で飽きているからよ。猫だっていろんなものを食べたいじゃないの。猫だって人間と同じよ。かわいそうだわ」
昔、猫には残飯に味噌汁をぶっかけて食べさせた。そんなことを今も言う人がいる。この脚本家もそれと同程度の認識なのだろうと思う。ごはんはあげていればいいんだろう、と。
人の食生活が変遷してきたのと同様に、今を生きる猫の食べ物も大きく変わってきている。猫を飼ってみるとわかるが、好き嫌いは人間並みに激しく、グルメな猫は多い。飼い主は「今日は何を作って食べさせればいいか」と悩む主婦と同じ気持ちになる。
2019年に食卓を通してゲイカップルの葛藤や愛情が深まる様子を描いた連続ドラマ「きのう何食べた?」(テレビ東京系)が放送された。そこで「きのう何食べた?」の猫篇といきたい。
我が家の初代の猫ジュテを飼って、2つのことに気付かされた。
最初に飼い始めたジュテの時は、実は恥ずかしながら、猫の食べ物に関しては先の脚本家と同程度の認識だった。人間の残りごはんをあげるか、ミルクを飲ませるかと思っていたくらいだから、大きなことは言えない。そこで先に猫を飼っていた、同じマンションの知り合いに教えてもらったりする日々が続いた。
そしてジュテのごはんとして落ち着いたのが、缶詰は「銀のスプーン」の「まぐろ・かつお」などのシリーズ、カリカリは「Sheba(シーバ)」の旨みがつおなど。吟味したというより、近所に小さなペットショップがあって、アイテムが少ない中から選んだものだった。ジュテは選り好みするタイプの猫ではなく、このパターンが比較的長く続いた。
面白いのは、ジュテの食べ方だった。旅行のために知り合いに預かってもらった時に、こう言われた。
「お宅の猫は食べ方がヘタね」
どうヘタなのか。普通、猫は丼や深めの皿に出されたごはんを噛みつくように、ガッガッと食べるが、ジュテは舌を出し、缶詰やカリカリを舌にのせて食べようとした。ところがなかなか舌にはのらなくて、缶詰やカリカリが前に押し出されるだけになり、口に入らない。そのため食べるのに時間がかかり、嫌になるのか、残す量が多い。ヘタに見えるのはそのせいだった。
ただ、それではお腹いっぱいはならないので、ジュテは残って乾いてしまった缶詰を、時間が経ってから食べ直していた。この頃はジュテ1匹だけなので、他の猫と争って食べる必要がない。だからおっとり構え、マイペースだったのかもしれない。
ジュテは2021年11月にこの世を去ったが、大きく変わったのは消化器系のガンに罹患してから。缶詰もカリカリも受けつけなくなり、どちらも別のものに変えてみたが、そんな中で意外なものを食べるようになった。
知人が教えてくれた生のマグロや、牛の生肉だ。牛の生肉は「病気になったら食べさせるといい」と新聞に載っていたという。マグロと牛肉を小さく切ってジュテの前に置き、すぐに試してみた。するとジュテはマグロも牛肉もやはり舌で押すようにしながら、少量だが、食べてくれた。これで元気になるかもと、淡い期待を抱いた瞬間だった。
その時の写真が残っている。ジュテの食事では、いつもの缶詰、カリカリをベースに、まぐろ、牛肉の皿が並んだ。多い時は8皿も。病気だったとはいえ、猫ごはん、恐るべし。その奥の深さに戸惑い続ける日々が、今も続いている。
(峯田淳/コラムニスト)