綿矢 朝井さんは読者の感想とか気になりますか?私は「読書メーター」(読書コミュニティサイト)は読んでいます。
朝井 具体的(笑)。昔はアマゾンの星の数の分布図を暗記していたくらいかじりついていましたが、今は手紙でいただいた感想だけ読むようにしています。
綿矢 どうしてですか?
朝井 まず、単純にものすごく時間を割いてしまうから。時間が溶けるんです。あと、次作を書く時にいろいろと思い出して引っ張られてしまうことが結構あって。なので、総合的に考えて、今は読まないほうがいいかな、と。綿矢さんは引っ張られたりしないですか?
綿矢 引っ張られますね。けなされているとかえって闘志がわきますが、褒められると「次にガッカリさせたらどうしよう」と思ったりすることもあります。見ないようにしても、ジャンクフードみたいに誘惑に負けてしまって(笑)。寝る前に「私、これだけ頑張って原稿書いたけれど、本当に読んでいる人いるのかな」と思う時に読んでしまうこともあります。
朝井 わかります。誰もいない宇宙に向かって原稿を放り投げている感覚!
綿矢 今回の作品についての感想で、印象に残っているものはありますか? 人の内面に問いかける内容だったので、読む人によって感想がバラバラになるのでは、と思いました。
朝井 おっしゃる通りで、長くお付き合いがある編集者さんから今までで一番歯切れが悪いメールが届いたり、逆に年に一度ほどしかやりとりのない方から、メール本文ではなくてWordファイルを添付してまでものすごく長い感想が届いたりしました。内容も、同じ作品の感想とは思えないほどバラバラです。
綿矢 感動したとか、考えさせられたとか、笑えたなど、感想がそろう作品もありますけど、この本はいろいろな読み方ができますよね。だからこそ、私も自分の角度で読んでいいのかな、と思いました。
朝井 私は「パッキパキ北京」(集英社)みたいな、主人公が真剣であるほど笑える小説が大好きなので、笑えたという感想は超うれしいです!
ゲスト:朝井リョウ(あさい・りょう)1989年、岐阜県生まれ。09年「桐島、部活やめるってよ」で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。13年「何者」で直木賞、「世界地図の下書き」で坪田譲治文学賞、21年「正欲」で柴田錬三郎賞を受賞。
聞き手:綿矢りさ(わたや・りさ)1984 年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。01年「インストール」で文藝賞を受賞しデビュー。04年「蹴りたい背中」で芥川賞を受賞。12年「かわいそうだね?」で大江健三郎賞、19年「生のみ生のままで」で島清恋愛文学賞を受賞。