インターネットテレビ局「ABEMA」のニュースチャンネル「ABEMAプライム」が配信した報道番組が、大きな波紋を広げている。
問題の番組が配信されたのは1月20日。「道に倒れていた女性に対してAED(自動体外式除細動器)使って救命措置を施したら、のちに強制猥褻で警察に被害届を出されてしまった」と主張する男性の訴えを取り上げ、その証言をもとにコトの経過の概略をフリップにまとめる形で次のように報じた。
〈女性には意識がなく心肺停止状態。心臓マッサージを行いつつAEDを準備。毛布の中で女性の衣服をめくりAEDパッドを貼り付け。救急車を呼んで自身も病院へ。看護師に名刺を渡して帰宅。数日後、警察から「強制猥褻で被害届が出ている」との連絡があり事情聴取。女性が被害届を出した親を説得して和解〉
ところが、である。その後、一連の報道が「ガセ」だったのではないかという重大な疑惑が浮上したのだ。
例えば朝日新聞出版のニュースサイト「AERAドット」は2月16日配信の記事で、警察庁に「心肺停止状態の女性に男性がAEDを使用した後、女性側が男性に被害届を出し、警察が受理したケースはこれまでにあったか」との質問状を送付したところ、「このような事例は把握しておりません」との回答があったと報じている。
実は今、証言者である男性のXは閉鎖されている。全国紙社会部記者は、
「ABEMAプライムは、証言者男性がXに投稿したポストに飛び付き、必要にして十分な裏付け取材を行わないまま、男性の証言を鵜呑みにしてしまった可能性があります」
こう前置きした上で、次のように指摘するのだ。
「さらに問題なのは、番組が『男性が女性にAEDを使用することにはリスクがある』などとして、視聴者に対し『女性にAEDを絶対に使わないで』とのメッセージを発信している点です。このようなメッセージが独り歩きすると『救える命が救えなくなる』という事態を招きかねません。まさに報道機関としての見識が問われているのです」
ABEMAプライムは、広がる波紋にどう対処するつもりなのか。
(石森巌)