夏目雅子は27歳の若さで急逝した、伝説的な美人女優だ。その美貌は今もなお、語り継がれている。
そんな夏目にちなんだ、めまいがするほど恥ずかしくなるような思い出がある。1983年、映画「魚影の群れ」の撮影で、青森・大間のロケに同行した時のことだ。
当時、夏目は作家・伊集院静氏との交際が報じられ、結婚の噂が流れていた。新人だった筆者は、とにかく結婚の噂について本人の口から聞き出すよう、指示されていた。
そんなチャンスがあるのかわからなったが、意外にも直撃取材の機会に恵まれた。現地で出演者の記者会見が行われ、夏目も出席。そこで会見終了後に、結婚の噂について聞くことに。
夏目は筆者を一瞥したものの、あっさり無視された。さらに追いかけ「どうなんですか」と問いかけると「誰か来てください、変な人が!」と関係者に助けを求める事態になった。今ならストーカーに向けて言うような言葉である。筆者は松竹の関係者に制止され、直撃は失敗に終わったのだった。
彼女とはもう一度、会う機会があった。それは翌年7月に行われた、伊集院氏との婚約会見だった。会見は世田谷の自宅で行われ、白いドレス姿の夏目は幸せそうで、まぶしいほど美しかった。一瞬、躊躇したものの、筆者は「おめでとうございます。あの時はご迷惑をおかけしました」と声をかけると、どうやら筆者を覚えていたようで、ちょっと驚きの表情を見せつつも「ありがとうございます」と軽く会釈をし、いたずらっぽく笑った。
このわずか8カ月後、夏目は急性骨髄性白血病のため入院。順調に回復していると言われたが、肺炎を併発して、1985年9月11日に帰らぬ人となった。
そしてこの日は、芸能マスコミ史に残ることになった。筆者は夕方まで、夏目の関係者取材などに追われていたが、夕方になるとあの「ロス疑惑」の三浦和義氏が逮捕されるとの情報が飛び交い、彼が滞在している銀座のホテル前へ急行した。200人以上の報道陣が集まる中、午後11過ぎに、警察は三浦氏がホテルから出たところを殺人容疑で逮捕した。
仕事が終わった午前3時過ぎに、筆者は改めて夏目が死去したことを思い出し、大間での会見での出来事や、婚約会見での彼女の美しい姿を思い浮かべ、しんみりした気持ちでビールを飲んだ。
(升田幸一)