アメリカのトランプ大統領がまたまた、日本との自動車貿易問題をめぐり、不満を表明した。3月12日にホワイトハウスで記者団に対し、「彼らは我々の車を受け入れてくれない。素晴らしい車を製造しているのに」と述べたのだった。
この要求は今に始まったことではない。2015年6月に共和党予備選に立候補表明した際も「東京で(ゼネラル・モーターズが製造する)シボレーは1台も走っていない」と話していた。
安倍晋三元首相は2017年2月の日米首脳会談でトランプ氏に、はっきりと現実を伝えている。
「今度、日本を訪れた時に、私と一緒に銀座を走ってみましょう。信号待ちの右も左も外車ばかりです。ただ、欧州製が圧倒的です。ベンツもBMWもアウディもみんな大変な企業努力をしていますが、アメリカ製は車庫には入らない。ガソリン代はかかる。だから人気がない。それを買えと言われても無理です」
この時、トランプ氏は安倍元首相の説明に理解を示したが、安倍元首相が学んだのは「トランプ氏には何度も言わないと、元に戻ってしまう」ということだ。元朝日新聞主筆の船橋洋一氏の著書「宿命の子 安倍晋三政権のクロニクル」にも「トランプには1980年代の日米貿易摩擦の時代の対日観がこびりついている」とある。つまり「少しは共通理解ができたかなと思っても、次回、会うとまたゼロから積み上げなければならない。何回、議論してもトランプの理解や省察が深まることはまずない」ということだ。
そこで安倍元首相が心掛けたように「常に会い、アップデートし、刷り込んだ瞬間にトランプから指示を出してもらう」こと以外にはないのだった。
問題は安倍元首相が粘り強くトランプ氏にアプローチしたような芸当が、石破茂首相にできるかということだ。日米の自動車問題は、石破政権の命運を占う大問題に発展しそうである。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)