昨年の振り込め詐欺などの「特殊詐欺」は約1万3000件。被害総額は過去最悪の約559億円を記録した。テレビCMなどで注意喚起しても被害は増える一方だ。そんな中、キャッシュカードを騙し取る「新たな手口」が登場した。
「危うく預金を全て失うところでした」
こう話すのは神奈川県内で1人暮らしをしている男性Aさん(68)。彼が直面したキャッシュカード詐欺の狡猾な手口を明かす。
「ことの発端は昨年12月に送られてきたレターパック。中にはキャッシュカードが入っていました」
同封された「案内状」にはこう書かれていた。
〈IC対応の新型キャッシュカードをお送り致します。旧式のカードは15年1月1日よりご使用できなくなります。用紙に暗証番号を記入の上、旧キャッシュカードをご返送ください〉
カードには、実際にAさんが口座を持つ銀行名が刻印されていた。
「すっかり信用して、返信用の封筒にカードを入れて投函してしまった。子供は独立しているし、近くに相談できる人はいませんでした」(前出・Aさん)
その日、たまたま手持ちの現金がないことに気づいたAさん。“新しいカード”で銀行のATMから現金を引き出そうとした。が、機械が受け付けない。
「ニセモノだ。騙された」
Aさんはすぐ銀行に連絡してカードの使用を中止する措置を取った。気づくのが1日遅ければ最悪の事態を招いていたはずだ。
「警察にも通報しました。警察官が自宅に来て、事情を話すとニセのカードや書類を証拠品として持って行きました」(前出・Aさん)
聴取に訪れた警察官は、精巧に作られたカードを見つめ、こうつぶやいたという。
「ニセモノにしてはできすぎている。すでに被害は広まっているかもしれない」
警視庁の発表によれば、特殊詐欺の被害者の8割近くを65歳以上の高齢者が占めている。
詐欺犯罪に詳しいルポライターの鈴木大介氏が語る。
「体が不自由で外出できない高齢者は格好の標的。警察や弁護士事務所の人間をかたって自宅を訪れ、『あなたのカードが偽造されています。口座を凍結するために必要です』と、カードを預かる手口も増えています。被害者に対しては、現金を引き出したあとも、逐一経過を報告する。こうした“アフターフォロー”で被害の発覚を遅らせるのも最近の傾向です」
さて、Aさんが送った本物のカードはどこへ行ったのか。彼がメモしていた送り先の住所を訪ねると、そこにあったのは私設の私書箱センター。郵便物の受け取りを代行する業者だ。
ジャーナリストの西島ゆうじ氏が解説する。
「かつては一般の男性が、家族にバレないようにビデオを購入する際によく利用していた。それが今では、犯罪者が主なクライアントという代行業者が存在するのも事実。
13年の法改正で、会員の身元確認の徹底が義務づけられました。しかし偽名で私書箱を借りる方法はいくらでもある。例えば高額バイトの求人をかけ、応募してきた人間に、『税金の関係で給料は振り込めないから』と、ギャラの受け取り用に私書箱を借りさせ、その会員資格をかすめ取るんです」(前出・西島氏)
高齢者だけではない。中高年層までもが小遣い欲しさにコロッと騙され、詐欺の片棒を担がされるケースもあるというのだ。
犯罪者たちは「獲物探し」にも悪知恵を働かせている。
「ある詐欺集団はニセの不在配達票を大量に送りつける。郵送で届くわけがないのに、何の疑いもなくそこに記されたニセのドライバーの携帯番号に電話してしまう人は多い。電話を受けた詐欺集団は、声色から年齢や騙しやすさを推察して詐欺の標的リストを作り上げる。こうしたウラの名簿は、1件当たり500円以上で取り引きされることもあるんです」(前出・西島氏)
誰もが被害者になりうるのだ。